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作品名:赤い雫 作者:牛を飼う男

第14回   大樹の城(2)
「おいで」
 シンジはまた2人を手招きした。ダンテとノゾミはそれに従って建物を抜け、庭を歩いて行く。しばらく歩くと、緑の森がなくなり、平地が遠くまで続いていた。
 遠くから風が動く音が聞こえる。その規則的な音がダンテの心には心地よかった。
「・・・わあ」
 ダンテはつい感嘆の声をあげた。遠くに巨大な木の幹が見えたからだ。その幹は天まで続いていて上がまったく見えない。
「あれは何?」
「あれは大樹さ。名前はつけていない。いつか誰かが名前をつけるかもしれないけれど」
 シンジは遠くを見たまま言った。
「あの大樹を君達に見せたいんだ」
「・・・あっ、そうだ。シンジ」
 ダンテはシンジに聞きたかった事を聞こうと思い話しかけた。
「なに?」
「あの赤い髪の人…マザクさん。どうしてここにいるの?」
「ああ、彼女は物書きでね。旅をしていてここに迷い込んだみたいなんだ。それで僕のことをご主人様と言うからメイドにしてほしいと―」
「誰がそんなこと言った?」
 シンジの後ろに箒を持って仁王立ちしているマザクの姿があった。
「ったく、嘘つくんじゃないよ」
「でも迷いこんで来たのはほんとだろ? 飢えで死にかけてたじゃないか。それにここが気に入って居ついているようだし」
「・・・・・・・・・」
 それは本当のことなのかマザクは何も言わなかった。
「お前等あそこに行くのか?」
「うん」
「・・・そうか、吐くなよ」
「?」
 ダンテはその意味がわからず首をかしげた。
「・・・メイド、君は城の掃除を」
「よし、私も行ってやろう。ちょうど暇だしな」
「・・・・・・・・・」
 マザクはシンジの言葉を無視してどんどん歩き始めた。シンジは「やれやれ」とマザクの後に続いた。ダンテとノゾミもその後をついていった。
 樹が近づいてくるたびにダンテは違和感を感じ始めていた。樹は茶色ではなく真っ白だった。それに樹の筋が規則正しくないし、幹から何か白いものが出ていた。それは近づくたびにはっきりとわかるようになる。
「・・・なに・・・これ」
 ダンテはその大樹の前で立ち尽くした。
 その大樹は人間の手や足や頭や体があった。それが何体も積み重なってできているのだ。風でぶらりと垂れ下がった手や足がゆらゆらと揺れている。
「この大樹はね。『人間の殻』でできてるのさ」
 マザクは箒を肩に抱えたまま言った。
「『人間の殻』?」
「ああ、確かこの下に住んでいる人間達が私達の住む世界を構築するために柱となったわけさね」
 マザクはコツコツと箒で白い地面を叩いた。
「この下?」
「そう。この下。こいつが言うには私達と同じ世界がそこにはあったみたいだね。その世界では魔術という概念はなくて、科学という物質があったらしい」
「今もあるの?」
「もうないよ」
 シンジはきっぱりと言った。
「この下はすでに地獄と化してるからね」
 シンジが意味深に微笑む。
「気味悪いだろ。私も始めてみたときはそれはもう悪寒がしたね」
 マザクが身震いするかのように手で体を抱えた。
 大樹の上から「キイ…キイ…」という音が聞こえる。それは指で壁をひっかくような音だ。マザクはその音を聞き、さらに体を震わせた。
「ねえ、ダンテ」
 急にノゾミが話しかけてきた。
「ほら、カチカチ」
 ノゾミはどうやら大樹から出ている人間の殻の手で遊んでいるようだ。
「お・・・おい」
「ほんと?」
 ノゾミを止めようとしたマザクを無視して、ダンテはノゾミの元へと向かった。
「ほら」
「うわっ!? すごい!」
 ダンテも人間の殻をペタペタ触り始めた。
「これだからガキは・・・」
 マザクは呆れて言った。ダンテは調子に乗って大樹から出た殻の手を引っこ抜こうと力を込めている。
「ははっ」
 シンジはその姿を見て思わず笑ってしまった。
「う〜ん・・・抜けないなぁ」
 ダンテは意地になってその手を抜こうと必死になった。
「・・・さてと、ノゾミ」
 シンジは笑い終えると、ノゾミに向きあった。

「第一段階は終わった。第二段階は君の意思しだいだ」

 ノゾミはその言葉を無表情な顔で聞いていた。


「ぬおおおおおお!!」
「はああああああ!!」
 カンタロウとキクが何故か体に気合を入れている。その姿を第三者的な立場で傍観しながらツッコもうかどうしようか迷っているソネットがいた。
「・・・ねえ・・・あなた達」
 さすがに長いことしているのでソネットは観念してツッコむことにした。

「便秘?」

「違うわぁ!」
 案の定カンタロウが反応した。
「そうよ」
 キクが冷静に言った。
「なに? お前は便秘じゃなかったのか?」
「おっ・・・おい」
 日頃一緒にいるカンタロウに真実を言われ、キクは恥ずかしさから顔が赤くなった。
「・・・さっきから『赤眼化』しようと気合を入れてるのよ。このまま歩いていっても意味がないわ。とりあえず翼を具現化させて空から壁の向こう側に行ってみようと思ったの」
 キクは気を取り直してソネットに行動の意味を説明した。
(・・・キクって本当に便秘なの?)
(・・・間違いないな。最近ストレスたまってるからな)
「って聞けよおい」
 キクは2人に言った。
「なんだ。2人とも出ないから苦しんでいたんじゃないんだ」
「だから違うって…」
「それで、どうして『赤眼化』しないの?」
「できないの! 何故か身体内の抗体反応が悪いわ」
「ふ〜ん・・・特に変化なさそうに見えるけど」
「ここには『レッドデス』が飛沫していないのかもしれないわ。カンタロウ、調子は?」
 カンタロウは首を振った。
「駄目だ。さっぱり。お腹も鳴らん」
「・・・困ったなぁ。いったいこの世界はどうなってるんだろ?」
 キクは頭を掻いた。


『大樹の城(2)』


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