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作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第52回   第一章 異端の少女《エレズィエト》(40)
 グランヴァウルの東側先端海域に点在する島々、ベェルジネ群島のひとつに反乱組織『レジヨン』の本拠『スィランドゥル』がある。
 第四大陸ラ・クトゥーラのユラニオゥム精製所から極南大陸のキャピタァルに向け航行していたユラニオゥム輸送マリィンは、レジヨンに乗っ取られ、『スィランドゥル』を目指した。通信衛星『北天の星』の管理網下から外れ、北東方面に向かい、半日後に到着した。
 『スィランドゥル』は、岩の島の横腹に大きく開いた洞から入り、その奥にある人造の水路を通り、広いプゥウルのような港口に突き当たった。ゆっくりと浮上し、昇降蓋を開けて最初に顔を出したのは、トゥドの部下のアドレィだった。
「よう」
 下から声がかかり、見下ろすと、接岸壁の上に、黒つなぎのレニウスとエンジュリンが立っていた。
「レニウス」
 レニウスとエンジュリンが足に車輪が付いている移動式の舷梯を用意していた。少し錆びているが、問題なく降りられる。
「トゥド様は」
 トゥドのマリィンは港口には見当たらなかった。
「まだだ、でも、グランヴァウルは無事通過できたから、追って到着する」
 そうかとアドレィがほっとしていた。エンジュリンがアドレィの肩越しにマリィンを見ていた。レニウスが察して、尋ねた。
「心配なのか、艦長のことが」
 こくっとうなずいた。アドレィが舷梯を降り掛けていた部下に、医療班室で聞いてくるようにと命じた。エンジュリンをマリィンの中に入れたくなかったのだ。
 港口はかなりの規模で、マリィンが三艦停泊できるほどの広さがあった。とはいえ、接岸して荷降ろしなどの作業ができるのは一艦だろう。
「燃料、降ろせるか、トゥド様が来る前に降ろしてしまいたいが」
 人手が足りないのではとレニウスが眼を険しくしたが、心配するまでもなく、アドレィが到着までにバルズと打ち合わせて、協力者を募り、搬送帯を動かして、降ろすことに手はずを整えていた。協力を拒否したものたちは、監禁していた。
 すでに艦の横腹が開き始めていた。
 先ほど、ファドレスの容態を聞きに行った部下が帰ってきて、容態は安定していて、ぐっすりと寝ていると報告し、それを聞いたエンジュリンがよかったと目元を緩めた。
 レニウスが、待っている間に、内部への運搬通路にレェエル(軌条)が敷設されていて、箱車で運搬が可能なことを確認していた。
 荷降ろしを部下たちに任せ、レニウスとアドレィは、運搬通路を通って内部に入ってみることにした。エンジュリンが少し間を開けて、後ろから付いてくる。アドレィが不愉快そうに肩越しに振り返りながら、ひそっとつぶやいた。
「大丈夫なのか、ほんとうに」
 このまま、本拠の中にまで入り込ませていいのかと険しい眼を向けた。
「少なくとも、アスィエ様がいる限りへたな真似はしないだろう」
 アスィエを守ること。そう命じられているからこそ、ここまで協力しているのだろうから。ここまでことが順調にすすんだのは、エンジュリンの魔力によるところも大きい。当初の計画通りだったら、トゥドのマリィンがアートランとやらの監視の眼をくらませて逃げられなかったかもしれないし、輸送マリィンを護衛していた魔導師を撃退できなかったかもしれないのだ。もっとも、それも『レジヨン』を探ろうという計画のうちかもしれないのだが。
「そう考えると、結果よければってことになるが、俺はどうも好かん」
 アドレィは、疑い深くエンジュリンを見ていた。
やはりアドレィと代わろう。そのほうがいい。
 そう決意して、ふと後ろを振り向いた。エンジュリンが翠青の眼を細めて見返してきた。どこか寂しげな様子に、もしや距離を置かなくてはという気持ちに気が付いたのかとあわてて前を向き直った。
 投光器で足元や天井、壁を照らし、見回しながら進んでいくと、ものの十五ミニツほどで通路が終わっていた。大きな穴があり、その奥は暗闇だった。
 投光器で照らしても、奥まで届かず、何も見えなかった。
「アデロワ班の調査で中の様子はわかっているはずだから、この先は調べなくていいよな」
 投光器の光を足元に落として、アドレィが戻ろうと手を振った。
 アデロワ班は、トゥドの指示により十数年もかけて、ようやくのことでこの基地跡を発見した。二百五十年前に作られた地上攻略の前線基地が北半球のいずこかの島にあり、パリスの曽祖父が議長の頃、その施設を復活させようという計画が持ち上がった。 だが、発電施設を新設したところで中止になってしまったのだ。中止命令を出したのは、その後すぐに議長に就いたザンディズだった。
 その前線基地のことをトゥドは母パリスから補給基地の話のついでに聞いていた。いずれ、復活させて、北半球の地上での拠点にするとのことで、具体的な場所などは聞いていなかった。そのため、その位置は容易にはわからず、学院に見つからないように慎重に探索を続け、三年前にようやく見つけることができた。
「発電装置の整備も済んでいる。後は、燃料棒が到着すれば」
 マリィンの機関部班が、艦艇動力と都市電力とでは勝手が違う中、なんとか進めていたのだ。
 港口に戻ってくると、箱車に燃料棒を移し終えたところだった。ゆっくりと箱車が動いていく。エンジュリンが遠目からその様子をじっと見つめている。
 アドレィはそのエンジュリンの様子をじっとうかがっていた。動けばすぐに撃てるように腰の銃嚢に納まっている短い銃身のオゥトマチクをそっと握っていた。もっとも素子はヒトならぬ速さで動くのだ。本当に妙な動きをされたら、防げるわけがない。その魔力を封じるには、『人質』を盾にとって牽制するしかない。だが。
「……素子だって、寝ることもあれば、油断することもあるだろう」
 アドレィが口中でつぶやいた。 


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