20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第51回   第一章 異端の少女《エレズィエト》(39)
 ジガンテクスメェエル(巨大大洋)―かつては大陸が存在したと言われているが、三千年前、地熱プルゥムシステムの暴走により、全惑星上のいたるところで大地殻変動があった。そして、その大陸は岩盤が崩壊し、深い亀裂が入り、ほとんどが水没してしまったのだ。今現在は極北海に近いところに群島、二の大陸側に環状列島が見られる程度だった。
 グランヴァウルの乱火脈を鎮化したエンジュリンは、トゥドの乗るマリィンに先行して、極北海寄りのジガンテクスメェエルに到達していた。
あらかじめ示されていたある地点に近付き、海面に浮上した。眼前に青々とした樹林に覆われた島々が見えていた。
「あれは、ベェルジネ群島だ」
 エンジュリンが、ここに来たことはなく、初めて見たと例の興味深げな様子でしげしげと眺めていた。北の島にも係わらず、グランヴァウルの東側先端に当たるため、地熱の影響があり、また土地が肥沃なので、樹木が豊かに生い茂っていた。
「あの中のひとつにある」
 その目的地のある島は、群島の中では小さく、しかもあまり緑がない、岩の島だった。海岸に大きな洞窟があり、それは人工的に掘削されたようで、洞窟内の岩肌は滑らかで整っていた。五百セルほど奥に入っていくと、人造石の石棚に突き当たった。石棚の海中に隠れている部分は大きく抉れていて、さらに奥に続いていて水路になっている。恐らくは、マリィンやアンダァボォウトなどの港口なのだろう。
 ザアッーと音をさせて水中から飛び出て、石棚に降り立った。ずっと抱えられていたレニウスが、ようやく足元が硬いところに降りられて、はあとため息をついた。
「疲れただろう」
 エンジュリンが気遣って胸元に手のひらを押し付けた。手のひらが光り出し、暖かな何かが流れ込んできて、身体が楽になっていく。
 レニウスがその手首を掴んで、引き離した。
「こんなこと、しなくていい」
 エンジュリンががっかりした顔で手を引き込めた。
「……有りえない力……まだそう思ってるんだな」
 レニウスから戸惑いのような波を感じた。
レニウスが首を振った。
「いや、認めざるを得ない、お前の魔力ってやつは。ただ、俺は」
 これ以上、エンジュリンに好意を持ってはいけないと拒んだのだ。レニウスが、目を逸らし、奥に小走りに進んだ。エンジュリンも大股で歩きながら続いた。
 両脇にはエレクトリクトォオチが埋め込まれていて、非常灯のようだが、点灯していなかった。途中で、レニウスが腰の袋から携帯トォオチを出してきて、足元を照らした。エンジュリンが気になって振り返った。エンジュリンが手を振った。
「俺は平気だ、見えるから」
 暗闇でもはっきりと見える。そうかとレニウスが前に向き直って、足を速めた。一番奥まで到着すると、あきらかに人造物で造られた壁に突き当たった。エンジュリンが指先で触れてから、手のひらを押し付けた。
「ふつうの鋼鉄だな」
 レニウスがうなずいてから、右脇の窪みを指し示した。
「あちらの扉も同じだ」
 覗き込んでみると、錆び付いてボロボロの対人用通用扉があった。
「ラカン合金鋼は使っていない」
 レニウスがよくわからんと肩をすくめた。
「ここに来るのは初めてだ、ここの調査は別の班がやってたからな」
 どうする、叩き壊せるがと聞くので、そのままにして、マリィンが到着するのを待てと止めた。
 おそらくは、距離的にユラニオゥム輸送マリィンのほうが先に到着するだろうが、それでも、後三ウゥルはかかる。
「では、それまで、少し睡眠取る」
 エンジュリンが平らな壁を背にして腰を降ろし、寄りかかって目を閉じた。
 レニウスが目を見張って見下ろしていると、すぐに寝入ったようで静かな寝息を立て始めた。膝を折り、顔を覗き込んだ。
「おい、エンジュリン、本当に寝たのか」
 呼びかけたが、返事はなく、ぐらっと横に倒れそうになった。レニウスがあわてて両肩を掴んで、黒つなぎの上に着ていた防寒用の上着を脱いで、丸めて頭の下に敷いてやり、ゆっくりと横たわらせた。
……俺がいきなり殺すとか、思ってないのか。
 安心しきっているその寝顔はまだ幼さがあって、かわいらしくてたまらなくなっていた。このままでは、いざというときに引き金を引けそうになかった。
 エンジュリンの監視をアドレィと交代しよう。そうでないと、きっと。
 腕の時計を見た。
「三ウゥルか……」
 ユラニオゥム輸送マリィンが到着する時刻より少し前に目覚ましの時刻を合わせ、しばらくエンジュリンの寝顔を見つめていたが、自分も眼を閉じて仮眠をとった。

 反乱組織『レジヨン』に乗っ取られたユラニオゥム輸送マリィン『エポォアル』は、第四大陸東沿岸から離れ、北東方面に向かって、最速で航行していた。副艦長バルズにオゥトマチクで撃たれたファドレスは、エンジュリンの魔力のおかげもあり、一命を取りとめ、医務班室のベッドで治療を受けていた。さきほどまで寝ていたが、眼が覚めたとき、医療班の看護士が、空になった点滴を取り替えていた。班長を呼ぶよう言いつけると、看護士が黙って頭を下げて、仕切り布の外に出ていった。
 十ミニツくらい後、班長がやってきて、ベッドの側の椅子に腰掛けて、胸元に聴診器を当てた。
「どこに向かっているのか、わかるか」
 ファドレスが尋ねると、班長は首を振って、顔を近づけ、耳元に口を近づけた。
「わかりませんが、ユラニオゥム燃料を反乱組織の基地に運ぶのでは」
 それはおそらく、そうだろう。その基地がどこにあるのか。出発前にアートランから送られてきた資料の中にあった、基地候補の地点は、検証の結果、百以上の候補から絞られて三十ほどあった。そのうちのひとつだろうか。
「……ジョジルはどうした……」
 自分のほかに撃たれた通信担当官を心配した。班長は暗い顔で首を振り、それで死亡したのだと察した。
 アートランから出航間際になって輸送マリィンの艦長になるよう指令が来たとき、自分を信頼して任せてくれたことがうれしかった。しかし、結局マリィンを乗っ取られ、ユラニオゥム燃料を奪われてしまった。副艦長バルズが反乱者と気がつかなかったことは不覚だったが、まさかエンジュリンが裏切るとは。 
 いや、ほんとうに裏切ったのか。
 クェリスはどうしたのか。無事なのか。
 後でエンジュリンに確かめければならなかった。
 眼をつぶる。ヴァシルの心配そうな顔が瞼の裏に蘇ってくる。なんとか生きて戻り、抱き締めたい。
……きっとうまく納まる。きっと。
 少しでも早く回復しようと考えを巡らすのを止めて、眠りについた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 10245