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作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第41回   第一章 異端の少女《エレズィエト》(29)
 第三大陸ティケア・トゥロォワ、最後のバレーである。人口約二千五百万弱、二年前から、一部のワァカァをキャピタァルに移住させていた。マリィンで輸送するので、いちどきに運べるのは百名ほどだが、定期的に行なっていた。
 アートランはいずれバレー・トゥロォワも統廃合し、キャピタァル一箇所にマシンナートを集めようと考えていた。
 このままでは、マシンナートのシリィ化が進まない。今はただ、できるだけ、管理のしやすいように一箇所に集めて、テクノロジイが地上に出ないように厳しく監視するしかない。
 しかし、すでに第五大陸のバレーを統廃合し、キャピタァルの密集度が高まっている。そのため、さらなる集中には、三者協議会《デリベラスィオン》内でも反対意見が多く、賛成しているのは副議長レヴァードくらいだった。議長のリィイヴでさえ、アートランの性急なやり方には反対していた。
 アートランは、バレーの外に出て、遣い魔の運んできた伝書を受け取り、妹クェリスに新たな指令を言い渡して、戻ってきた。
 中央塔地下の中央管制室に向かうと、評議会議長リンクスと魔導師レスクヴァが待っていた。
「管理外マリィン、なんて呼びますか」
 レスクヴァが近付いてくるアートランに尋ねた。アートランがなんでもいいが、スウリとでも呼ぶかとあざ笑った。
「スウリ、ねずみですか、それはまた」
 レスクヴァが苦笑した。
「だが、この『ねずみ』、あなどれない」
 なにを隠しているのか、それがわからないと正面の大型モニタを見上げた。
 中央管制室の担当官に座標を告げ、極北海の地図に表示させた。
「氷塊列島《イルゥズフィジェ》最大の島ヴァウベク島、《スウリ》は、今あそこに潜んでいる」
 リンクスがなるほどと顎に手を当てた。リンクスが補給基地ではないかと示した地点のひとつだった。三百年ほど前に作られた極北の拠点だった。百年ほど前から放置されていたはずだった。パリスが復旧させたのだろう。
「ミッシレェとか隠し持ってるんでしょうか、この基地に」
 レスクヴァがすぐにでも行って見てきますと行きかけたのを止めた。
「持っていたら、すでにマリィンに積んでいるだろう」
 いまさら急いでも無駄だと言われて、はあと困ったように地図を見上げた。そこに協議会担当官のフリアがやってきた。お辞儀したフリアにアートランがうなずいた。
「どうだった」
 フリアがはいとヴァトンを渡した。アートランが受け取りながら、三人を中央の主任席に呼んだ。
「二十二人か、それにしても、こいつらが不満分子とは分かっていたが、《スウリ》との接触があったとはな」
 主任席のボォウドの横にある差込口にヴァトンを差し、前にあるモニタに名簿を映し出した。
「全員確保しろ」
 まだ何も行動は起こしていないので、本来ならば確保には理由が必要だった。だが、アートランは、理由はいらないと机を叩いた。リンクスが了解した。
「ハイラムは抵抗したのか」
 フリアがいいえと首を振った。
「しませんでした。知られていたとは思わなかったそうです」
 フリアは、職員のモウディが情報を流しているのではないかとここ数ヶ月泳がしていた。ハイラムは三者協議会担当官としての資格基準に満たず、シリィ化や地上に対する理解度が不足していた。しかし、担当官を希望するものが少ないので、しかたなく使っていたというのが実情だった。もっとも、情報の漏洩は、ハイラムが罷免したことに対し協議会に個人的な恨みを持ち、させていたのではと考えていたので、外部へ流すためとまでは思い及ばなかった。
 パァゲトゥリィゲェィトで待ち伏せて捕まえた。許可なくバレーの外に出たことだけでも充分違反行為だった。ハイラムはあっさりと内通したことを認め、管理外の小箱を差し出した。
「ふん、最後まで貫く覚悟もないのに、逆らうとはな」
 アートランが腕を組み、椅子にどかっと座った。
「まったく、甘く見られたもんだ」
 今回の事の成り行きによっては、全員処刑だとヴァトンを引き抜いた。
「処刑って……殺すんですか」
 レスクヴァが眼を丸くした。
「もちろんだ。国と学院に対する反逆罪は死刑だぞ」
 しかも徒党を組んで争乱を起こそうとしていると断じた。まあそうですがとレスクヴァが困った顔をした。三者協議会の議員たちが賛成するとは思えないし、強行したら協議会に対してインクワィアたちが黙っていないだろう。それでなくても、アートランの強引なやり方には反対するものが多いのだ。
「カージュに送ればいいのでは。再建する必要があるし」
 リンクスが電文を三者協議会直属の警備班に送って不満分子二十二人の確保を指示した。
「カージュだと? 甘い。もし終身刑にするなら、アンフェエル送りだ」
 アートランがかなり怒っていることを察して、リンクスがそれもありだなと消極的に同意した。
 管制室の担当官が振り向いた。
「アートラン議員、ユラニス・カトリイェエムから音声通信です。お繋ぎします」
 立ち上がったアートランが耳覆いを受け取り、口元に集音器を寄せた。
『アートラン』
 声の主はヴァシルだった。
「なんだ」
 テクノロジイを通してもヴァシルが苛立っているのがわかった。
『輸送マリィンの艦長、なんで急に変更したんだ?』
 明日早朝、ユラニス・カトリイェエムからキャピタァルへ、ユラニオゥム燃料輸送のマリィンが出航予定だった。その艦長を変更する指令書を送っていた。
「説明しなければわからないのか、察しろ」
 そのくらいわからないわけはないのに、わざわざ音声通信まで使って聞いてきたわけはわかっている。
『現場を離れて何年だと思う、急に復帰といわれたって』
 無理だとヴァシルが反対した。
「別にテクノロジイのレェベェルが上がったりしてるわけじゃない。ずっと同じなんだ。問題ない」
 切るぞと言われて、ヴァシルが遮った。
『いやな感じなんだ、行かせたくない』
 本音を出したなと鼻先で笑った。
「俺もいやな感じがする。だから、ファドレスに任せるんだ」
 ヴァシルは大切なヒトであるファドレスを危険な目に会わせたくないのだ。
 予定していた輸送マリィンの艦長バウロは《スウリ》との接触はない。だが、接触のあった不満分子の中にバウロの父エスクムがいる。エスクムは、バレー・トゥロォワ評議会議員だ。《スウリ》は反乱分子を集めている。しかも、トゥロォワの協力者たちに「ミッション開始。忍従もこれまで」という電文を回覧させようとしていたのだ。バウロは、今までシリィ輸送マリィンの艦長だったが、去年からユラニオゥム輸送マリィンの艦長になり、今回が二回目の航海だった。
 ユラニオゥム輸送は精製棟からの原燃料をキャピタァル、バレーに輸送する往路と使用済み燃料を回収してくる復路からなっている。使用済み燃料の再処理操業は長く保留となっていた。そのため、以前はキャピタァルの地下にある廃棄物最終処理場《アンフェエル》の氷の穴に投棄されていたが、今後は再処理して新しく精製しない方向を勘案中のため、ユラニス・カトリイェエムに送って保管していた。
 バウロの一回目の航海は復路。今回往路。なんらかの含みがあると考えられる。
『ユラニオゥム燃料を奪うかもしれないって考えてるんだね』
 ヴァシルがそれなら自分が護衛に付くと言い出した。
「護衛ならクェリスを付けた。おまえは、ユラニスを守れ」
 陽動作戦ということもありうる、私情は捨てろと厳命した。
 本来なら輸送を延期したいところだったが、バレー・サンクーレのワァカァたちを収容したことで、二十五階までだったキャピタァルの下層階層を三十階まで使うことになった。そのため、電力不足になり、休眠していた四箇所目のユラニオゥム発電所を再稼動させるための燃料棒が必要だったのだ。
『……了解』
 不愉快そうにブツッと一方的に切った。ふだんはアートランには逆らわないヴァシルにしては珍しい態度だった。いやな予感が現実になるかもしれないという不安が強いのだ。
 アートランが、ふうと息をついて、耳覆いを外した。リンクスが見上げた。
「ファドレスでなく、ラリサでよかったのでは」
 ラリサは、以前、エトルヴェール島―キャピタァル間の定期便マリィンの女艦長だった。三者協議会《デリベラスィオン》輸送委員会の担当官として、現場でワァアクしていた。
「ラリサは、極南島のサクリース沿岸にいる。呼び寄せる時間が惜しい」
 リンクスの目の前のモニタに次々と不満分子確保の連絡が白い四角で届いていた。リンクスが連絡を点検しているのを見ながらアートランがモニタをにらみつけた。
……この災厄を逆に利用しなくては。しかし、果たしてうまくいくかどうか。
 悪くすると大災厄にもなりかねない。だが、今のこの閉塞した空気を打破しなければ、結局このままずるずると……。そんなことはさせない。とにかく、あの計画を発動する理由にはなる。
 アートランが正面の大型モニタに眼を移した。


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