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作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第35回   第一章 異端の少女《エレズィエト》(23)
バレー・トゥロォワに到着したアートランは、中央塔二十七階にある小会議室のひとつにトゥロォワの評議会議長リンクスと三者協議会《デリベラスィオン》の臨時議員として赴任していた四の大陸のシンブルゥ=ファム王国魔導師レスクヴァと担当官たちを集めた。
 この小会議室は、監視キャメラなどがなく、タァウミナルも独立系で使うようになっていて、いわゆる秘密会議などに使われる部屋だったので、なにごとかとリンクスがいぶかしがりながら、小会議室で両脚を円卓に乗せているアートランの隣に腰を降ろした。アートランが手を振ると、担当官のひとりが窓の鎧戸を閉め、壁の大型モニタが光りだした。
「どうやらパリスの執念が乗り移ったやつが生きていて、徘徊し始めたようだ」
 なにっとリンクスがモニタに眼をやった。モニタには、ふたつの画像が映し出されていた。手書きのようで、柔らかな線で描かれている。
「……トゥド? いや、アリアンか?」
 リンクスが声を震わせた。アートランが両脚を降ろして、手元のボォウドを叩くと、ふたつの画像の脇に実写の画像が現れた。十五年前の画像だとアートランが説明しだした。
「北天の星にアクセスした小箱の出所がわかった」
 この人物が「リド・アザン」村のアスィエに小箱を渡していたこと、この人物を中心とした連中が、大型マリィンを所有していて、そのマリィンで極南列島のカージェを襲撃、違反者を全員脱走させ、さらに、「リド・アザン」村の収容者たちも連れて、逃げ去ったと話した。
「大型マリィンを所有……ありえません。マリィンは全数、協議会の管理下にあります」
 担当官のひとりが首を傾げた。
「管理外のマリィンがあったんだ」
 かつてパリスが最高評議会議長に就任後、廃艦に見せかけて大型マリィンを私有したこと、極北海のどこかに補給基地もあることを明かした。
「まさか……ユラニオゥムミッシレェを積んでいたとか」
 魔導師のレスクヴァが青ざめて声を震わせた。アートランが可能性は五分五分だと眼を険しくした。
「こいつはトゥドだ。アリアンは死んでいる」
 亡き母の復讐を果たすためになんでもするだろうと見上げた。首を傾げながらリンクスが画像を見つめた。
「しかし、十五年経って、今さら動き出したのは、どうしてだ?」
 それはまだわからんとアートランが画像を睨んだ。
「補給基地がありそうな場所、わかるか」
 アートランがボォウドを叩き、極北海の海図を表示し、リンクスに尋ねた。リンクスの頭の中に、いくつかの候補地が浮かんでいた。
 リンクスは四十五歳の若さで議長になった。規則では、議長は大教授たちによる選挙で選ばれるのだが、『マシィナルバァタァユ』以降は、キャピタァルとバレーの評議会議長ならびに議員は、三者協議会が任命していた。リンクスは、メェイユゥル(優秀種)ではなかったが、三十そこそこで教授となっていて、有能だった。啓蒙派であったこともあってか、三者協議会と学院に対して協力的で、三年前アートランが議長に就任させたのだ。
 リンクスが釦を叩き、いくつかの地点に緑の光点を点灯させた。
「あるとしたら、この十箇所のうち、どこかだろうな」
 百年から二百年前とかなり古い記録ではあるが、啓蒙(エンライトメント)活動の地上での拠点や補給地点となった場所だった。第二大陸、第三大陸、第四大陸それぞれの北海岸に二箇所づつ、あとは、極北海に点在する島だ。
「ひとつづつ潰すか」
 それとも、クェリスの追跡報告を待つかと悩ましげに海図を眺めた。
「追跡させているのならば、その経路先を予測して、範囲を狭めればよろしいのでは」
 担当官のひとりが不愉快そうにつぶやいた。それはそうだがとリンクスが手を振った。
「この際、地上での拠点を始末しよう」
 おそらく人造石と鋼鉄を使っているはずだった。ほとんどは地下か海底にあるのだが、それでも人造物を放置しておきたくなかった。
「それはおいおいな、今はそんな暇はない」
 アートランが不満分子の行動監視を怠らないようにと指示した。
「情報を流しているはずだ」
 カージェとリド・アザンについての情報をはじめ、地上との接触についてのデェイタは、暗号化し、安全性を強化していた。しかも、共有することなく、独立系でのやりとりをしていたので、なんらかの方法で網《レゾゥ》から情報を盗み出していたとしても、カージェやリド・アザンについて知るはずはないのだ。
「アスィエが誰であるかわかっていて、小箱を渡したとしか思えない」
 本来ならば、シュティンに渡すはずだ。縁もゆかりもない娘に渡す意味はない。トゥドには、アスィエがファンティアの孫娘であるだけでなく、パリスの孫娘であり自分の姪であるとわかっているのだ。
 監視の件はすでに動いているので、のちほど初動報告の提出をすることにした。アートランが一度バレーの外に出て来ると言って、解散させた。


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