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作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第22回   第一章 異端の少女《エレズィエト》(10)
 エンジュリンの描いた絵をヴァシルに描き直してもらうために、ラトレルは、二の大陸北海岸の訓練村から四の大陸にあるユラニオゥム精製棟《ユラニス・カトリイェエム》に向かった。
 ウティレ=ユハニで受け取った師匠からの追補の伝書には、移動のみ『使って』よいとあったので、空を飛び、真夜中には、海底洞窟のパァゲトゥリィゲェエトを通って、ユラニス・カトリイェエムの鉄扉に到着していた。洞の天井は岩のドームのようになっている。
 洞窟の一番奥にある鉄扉は、マリィンが出入りする海中の大門とわずかな空気の層がある天井付近にヒトが出入りする小門があった。小門の横の岩を押すと、開いた中に認識盤があり、暗証番号を入れる釦がついていた。ラトレルが認識番号と暗証番号の組み合わせを入力した。すると、小門が開いた。身体を中にいれると、後ろで扉が閉まった。
「まだ夜中だな」
 本来ならば、訪ねるのは失礼な時間だが、一刻を争うかもしれないので、扉の内側にある詰所に向かった。
 詰所には、警備員がいて、ラトレルを見て、魔導師と分かり、頭を下げた。タァウミナルを借りて、ヴァシル先導師に音声通信した。呼び出し音をかなり鳴らしてから、ようやく繋がった。
『……ヴァシルです、なにか緊急のことですか……』
 ヴァシルの応答があった。後ろでどうしたと男の声がしていた。
「ヴァシル先導師(せんせい)、ラトレルです。至急のお願いがあります」
 これからお伺いしたいと頼むと、わかりましたと了解してくれた。
 統制部までは海中を通っている強化硝子の隧道(トンネル)を通っていく。ラトレルは、隧道の中を飛んでいき、すぐに統制部に到着して、そのまま、エレベェエタァで地下五階の居住区に降りていった。
 ヴァシルが寝泊りしている部屋の訪問釦を押すと、すぐに扉が開いた。
「どうしたの? こんな夜中に」
 ヴァシルが出迎え、険しい眼を向け、応接椅子に腰掛けるよう勧めた。頭を下げながら座った。
「もうしわけないです。急いでいたものですから」
 ふところから、エンジュリンが描いた絵を出した。ヴァシルが手に取り、しげしげと見て、うなった。
「エンジュリンだね、この絵は」
 どうして生き物の絵が下手なのかなと嘆いた。しかたないので、魔力で描かせましたともう一枚出した。
「これを描いてください」
 画像デェイタにして、キャピタァルに送ると説明した。ヴァシルがわかったと部屋の隅の棚から、箱を持ってきて、中から羽ペンとインク壺を出し、エンジュリンが最初に描いた絵の紙の裏に描き始めた。描き上がった絵を差し出した。
「さすがです」
 ラトレルが完璧な出来映えに感心した。ラトレルも魔力では複製できるが、実筆ではここまで再現できないのだ。
「このヒト、何者?」
 ヴァシルが茶を入れた茶器を持って来た。ここでラトレルがようやく事情を話した。先に話さなかったのは、余計な情報を入れて先入観を持たれたくなかったからだ。
 通信衛星『北天の星』で、ブワァトボォウドからの発信を捕らえ、発信元が第二大陸訓練村『リド・アザン』であるとわかり、エンジュリンが調査をしに行って、所持者を捜し、渡した者の心象が得られた。この男がその渡した者なのだ。
「その件は、聞いていたけど、そこまでわかったんだ」
 様々な要件や距離から言って、バレー・トゥロォワから、何者かがアンダァボォウトを無断で使用して、渡したのだろうと目されていたが、すでに死亡しているはずのもののブワァトボォウドを所持しているものがいるということは捨てて置けないことだった。しかも、地上で研修を受けているものに渡すことは、重大な規則違反である。
「それにしても誰なのかな」
 ヴァシルが茶をすすった。寝室の扉が開いて、白髪混じりのぼさぼさの頭を掻きながら、五十代くらいの男が出て来た。
「俺も茶もらうぞ」
 力ファを入れる杯を持って来て、机に置くと、ヴァシルが茶を注いだ。男が机に置いてあった似顔絵に気づいた。
「これは……」
 ラトレルがあわてて隠そうとしたが、その前に手にされてしまった。あまり関係のない者には見せたくなかった。ましてこの男は、マシンナートだ。協力していると見せかけてということも考えられる。
「ファドレス、見覚えあるんですか?」
 ファドレスが、いやまさかなと戸惑った。
「俺が知ってるのは十五年前だからな」
 似てはいるがと自信がなさそうだった。ヴァシルが十五年前ですかと目をつぶってから、エンジュリンが魔カで描いた紙を裏返して描き出した。
 その描き上がった絵を見て、ファドレスがうなった。さきほど描いた人物より、十歳以上若い感じで、二十歳そこそこといったところだろう。過去にどういった顔だったかを仮想して描いたのだ。
「これは、トゥドかアリアンだ」
 えっとヴァシルとラトレルが同時に息を飲んだ。
「トゥドかアリアンって……パリスの子どもの?」
 ヴァシルが声を震わせた。ファドレスも青ざめていた。
「ふたりとも、死んだと認定されています。どういうことでしょう」
 ラトレルも戸惑いを隠せずにいた。
「あくまで認定だからね、確定じゃないし……」
 ヴァシルが顎に拳を当てて、考え込んだ。とにかく、この画像をデェイタとして取り込み、キャピタァルに送信することにした。
「どっちが生きてるにしても、やっかいだな、復讐を考えてるに違いない」
 ファドレスが、ふたりは双子だが、トゥドは沈着冷静でアリアンは激情的と対照的、どちらも決断力と行動力があると解説した。
 ドォァアルギアの副艦長だったファドレスは、ギアの乗組員たちを全員集めての集中レクチャーを数ヶ月受けていたので、ふたりを良く知っていたのだ。
「地上で暮らしていたのでしょうか」
 バレーやキャピタァルでは、登録番号での個人管理が厳重で、短期間ならともかく、十五年もの間、潜んでいるということは考えにくい。
「いや、協力者がいれば不可能じゃないぞ」
 それも、協議会内にいればとファドレスが眼を伏せた。
「たしかに、議員が不正をしていたこともあるし」
 これは深刻なことですとラトレルが急いで茶を飲み干し、司令室に行きますと立ち上がった。
「わたしも行こう」
 ヴァシルも腰を上げた。


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