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作品名:無限の素子 作者:本間 範子

第11回   序章 異形の少年《ディフェラン》(11)
 執務所の裏手に五頭の馬が用意されていて、さきほど三人を連れてきた将官が待っていた。領主護衛隊長ドゥレンと名乗り、エンジュリンに剣を返してきた。
「昨日、預かったものだ」
 エンジュリンがうなずいて、受け取り、帯を着けた。ラトレルとリギルトの分も返して来た。馬に乗って、裏門を出て、東の湖を目指した。城から湖の中ノ島への浮き橋のたもとまでは、太い幹道だったが、ほとんどヒトが通らないようで、まだ夜になっていないのに、ヒト影もなく、静かだった。
 浮き橋のたもとの鉄門扉は開いていて、浮き橋を渡ってくる荷車が何台かあった。馬を降り、歩きで浮き橋を渡り始めた。作業をしていた人足たちは、『偉いヒト』たちが来たというので、手を止めて土下座した。荷車には厚い帆布が被さっていた。
「中を改めたいのですが」
 ラトレルが指差すと、アルトゥールが顎をしゃくって、ドゥレンに帆布を捲らせた。 荷車の中には、螺子や釘が積まれていた。エンジュリンがその中のひとつを摘み上げた。
「鉄だ」
 指で触れると『もの』の成分が分かる成分分析の魔力を持っていた。
「鉄以外で持ち出しているのは、硝子、金、銅だ」
 アルトゥールが、銀はもうないと帆布を被せた。
 ピエヴィへの階段を降り、詰所に入った。詰所では、あらかじめ連絡がしてあったらしく、当番たちが、三人ほど待っていて、頭を下げた。
「領主様、蓋はもういっときほど前に閉めましたので、こちらからどうぞ」
 蓋とは、底の扉のことだった。奥の板が外されていた。暗い穴がずっと続いていて、かすかに風が吹き出ていた。
 ドゥレンが、蝋燭の灯明を持ち、先導した。アルトゥール、エンジュリン、リギルト、ラトレルの順で進んだ。滑らかな白っぽい石とも金属とも付かない素材の通路がゆるやかに下っている。途中で木の板が扉のように遮っていた。錠が掛かっていて、ドゥレンが錠を開け、板を退けた。
「おまえは此処で待っていろ」
 アルトゥールが、ドゥレンから灯明を取った。ドゥレンは一度言い出したら聞かない領主の性質を知っていたので、すぐに頭を下げて、脇にどいた。リギルトが腰の袋の中から、小さな水晶球を出した。
「これなら、光ってるから」
 水晶球を魔力で精練し、発光するようにしたものだ。灯明を持っていってしまうと、真っ暗闇になるからと渡した。
「よろしいのか」
 ドゥレンが戸惑っていたが、リギルトがにこにこしてうなずいているので、受け取った。
 先に進むぞと歩み出してから、後ろを振り返ると、小さな光が見えた。
「灯明を残して、あれを借りればよかったな」
 アルトゥールが歩くとゆらゆらと揺れる蝋燭の光が見難いとため息をついた。リギルトが袋からもうひとつ出してきた。
「どうぞ、使って下さい」
 アルトゥールが有難いと蝋燭の光を消した。
「やたらと道具を出すな」
 ラトレルが叱ると、リギルトがすまなそうな顔をした。
そろそろ螺旋回廊に出るとアルトゥールが指差した。
急に広いところに出た。大きな穴が開いていて、壁にそって、道があり、下に向かっていた。横穴も大きくて、そこから鉄の鎖が何十本も出ていて、下に向かって伸びていた。穴の側には、鉄の棒が何本も積み上げられていた。
「少し酸化してきてる」
 エンジュリンが鉄の棒に触れていた。錆を削ってから熔かせば使えるとアルトゥールが螺旋回廊を降り始めた。
「下に着くにはふた時かかる」
 往復したら、夜が明けるなと苦笑した。
「おまえたちは飛べないのか」
 ラトレルが、飛べますが飛びませんと答えた。
「謎掛けのようだな」
 ふた時の間、黙々と歩いていったが、アルトゥールはしっかりとした足取りで少しも疲れた様子もなかった。
 螺旋回廊の底に到着した。半円型の入口から中に入ると、三人の眼には、林立する平たい石柱が見えていた。人造物でできた平らで滑らかな道がまっすぐに伸びていて、その先に立錐形の尖塔が見えていた。
「どうやって調べるのか知らんが、全階層を調べるとしたら、何年も掛かるぞ」
 アルトゥールが肩をすくめた。
 ラトレルが『中央塔』を見に行くかと相談すると、エンジュリンがリギルトにここで領主と待つように言って、飛ぼうとした。気付いたリギルトが咎めた。
「あ、エンジュ兄さん、『使って』いいの?」
この先は『使わ』ないと調べられないからいいとラトレルを置いて、光の筋となってたちまち消え去った。
「おい、エンジュリン、勝手に行くな!」
 まったく言うことを聞かないヤツだと文句を言いながら、追いかけた。
 細長く高さのある『中央塔』の門扉を越え、正面扉まで行ったが閉まっていた。しかも、錠もなにもない。扉に光らせた拳を叩き付けた。ガシャーンと硝子が砕けるような音がして、扉が粉々になった。ラトレルが、飛んでくる破片を避けた。瓦礫を乗り越えて、塔内に入った。
 塔内は、すぐに玄関広間あって、広々としていて天井も高かった。奥に扉がいくつか向かい合っているところがあり、一番奥の扉を叩き壊した。中には太い鋼鉄の縄が何本かぶらさがっていて、上にも下にも続いていた。
 ふたりで下に向かって落ちるように飛び込んだ。すぐに底に達し、そこの扉の内側も壊して中にはいった。
 暗い廊下が正面と左右に続いている。正面の廊下を進み、突き当たった扉も叩き砕いた。
 室内の壁に硝子板がいくつもはめ込まれていて、机のようなものもたくさん並んでいたが、そこには、釦や突起がたくさんあり、文字が書かれた板もあった。
 エンジュリンが剣の柄頭を捻った。どうやら柄が空洞になっていて、握りの部分に何か仕込んであるようだった。細い棒のようなもので、それを出してから、文字が書かれた板を引っ張った。バリッと音がして、剥がれ、なにやら線が張り巡らされ、粒のようなものが散りばめられたものがむき出しになった。
「出庫記録走査する」
「うまくいくか」
 ラトレルが心配して、覗き込んだ。エンジュリンが持って来た細い棒をすっとどこかに刺し、剣の柄頭の裏側から、黒く四角い板状のものを出して、棒と繋ぐと、棒が光りだし、同時に目の前の硝子の板に灯りのようなものがついた。
エンジュリンが剥がした板の上の文字を押して行く。すると、硝子の板に数字や文字が浮き出てきた。
「すべての機能停止から、九年経っている。もともと在庫はない……リヴァス・リスィテ電池の出庫記録も十五年前が最後だ」
 ラトレルが硝子の板に浮き出ている文字を見つめていた。
「九年か、リヴァス・リスィテ電池は充電しなかったら寿命は三年から五年だったな。となると」
「ここからではないな」
 未使用だったとしても、充電型のリヴァス・リスィテ電池は、充電が必要だから、ここから持ち出したとしても使えないだろうと話し合った。
 棒を抜くと、硝子の板が元のように真っ暗になった。棒と黒い板を剣の握りの中に戻した。
 『中央塔』の外に出てから、エンジュリンが両手の手のひらを壊してしまった扉にかざし向けた。手のひらが真っ赤になって、離れていても熱を感じた。手のひらから何か赤く輝く液体が噴出してきた。
 まるで溶鉱炉の側にいるように熱い。灼熱の液体が扉の回りに掛かると、壁が熔け出した。
 ラトレルがまぶしそうに目を細めた。たちまち、扉が熔けた壁と溶岩で塞がった。
 詰所まで戻ってきた。アルトゥールとリギルトが所在なげに待っていた。
「ご領主」
 ラトレルが、完全に疑いが晴れたわけではないですがと前置きしてから、出所はここではありませんでしたと告げた。
「もっと徹底的に調べてもいいぞ」
 いえ、もう充分ですと頭を下げた。
 来たときと同じくらいの時間を掛けて、螺旋回廊を登り、ピエヴィへの通路を戻った。
 側近は無事に戻ってきたとほっとした顔で出迎えた。
 穴の外に出たときは、夜明けになっていた。


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