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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第63回   イージェンとマシンナートの都(4)
暗くてもイージェンには部屋の中がはっきり見える。この男がファランツェリの父親。顔はあまり似ていないが、小さめの耳の形は似ていた。部屋はやはり円形で、壁にいくつもの大きなモニタが埋め込まれている。
「バルシチス教授、準備しておいてくれ、審問が済み次第移動する」
 しわがれた声。父親というより、祖父のようだ。小柄で頭の上に白髪が少し生えているだけで、顔色はくすんでいて、目の下や頬はしわでたるんでいた。かなりの年だ。
「了解しました。では」
 バルシチスが出て行き、部屋にはジャイルジーンとふたりきりになった。ほかに気配はない。
「これからセクル=テゥルフ・アーレ臨時評議会を開催する。議長は、最高評議会議長パリスに委任する」
 ジャイルジーンが声高に宣言した。急に七つあるモニタが光った。正面のひとつに、映し出された顔を見て、気付いた。四十にはなっていないようだが、すくなくとも二十代ではなさそうだった。女。ファランツェリにそっくりだった。
 ファランツェリは、このじじいとあの女の子ども?
 ほかの六つのモニタにもそれぞれ白い服を着たマシンナートが映っている。おおむね六十とか七十とか、そのくらいの年寄りだ。シリィは平均寿命が四十五から五十くらいなので、六十、七十という年寄りはかなり少ない。あとひとり、若そうな男がいた。
『最高評議会議長パリスだ、素子イージェン、誰の素子だ』
 真ん中の女が話しかけてきた。居丈高な教授連中の中でもさらに高圧的な物言いだ。不快感がどんどん増していく。
「誰の素子?素子があると魔力を持って生まれるという程度しか知らん」
 パリスが手元の何かを見ている。
『出身大陸は、トゥル=ナチヤか、イメイン素子と推定されるな』
 イメインはトゥル=ナチヤの大魔導師、つまり素子というのは、大魔導師に属するものなのか。
『ファランツェリの報告によれば、きさまはトレイルでタアゥミナルを初めて見るようなそぶりをしながら、操作して情報を収集していたということだが』
 見損なっていた、ファランツェリのことを。少しかしこいだけで、かわいい子どもと思っていたが、とんでもない。全て見透かされていたのだ。
「本当に初めて見たんだ。見よう見まねで動かしてみただけで、情報を収集なんてしていない」
 パリスは疑わしい目で見ていたが、息をついた。
『まあ、いいだろう、それが本当だとして…見よう見まねでここまでできるとはかなりの能力を持った素子と言うことだ』
 パリスの左隣の老人が発言した。
『パリス議長、ガラント大教授と教え子のユワンのことですが』
『ニーヴァン大教授、その件に関しては、いろいろと評議会内に動きが出る。序列からして、おまえがジャイルジーンの後継者ということになりそうだな』
 隅にいたジャイルジーンが中央近くの明るいところに歩いてきた。
「パリス議長、どういうことです。わたしの後継者とは…」
 パリスが手元のボォウドを叩いた。パリスが映っているモニタの隅にユワンの顔が映し出された。
『後五年も待てば…労せずしてテェエルなど…』
 パリスのいらだたしげな声がかぶった。ジャイルジーンが震えだした。
「しかし、それは、ユワンが早まったせいで…あのようにせざるを得なかったのです」
 声も震えていた。ジャイルジーンはかなりの有力者と見ていたが、このパリスという女の方が地位が上なのだ。
『ユワンのミッションは、状況も幸いしたが、順調だった。この成果は評価されるべきものだ。ただ、海戦のアウムズをマリィンにしたことだけはまずかったがな』
 ユワンの横に別のマシンナートの男が映し出された。
『ニーヴァン大教授から聞いたが、ガラントのミッション修正案を却下し、ガラントを一時停職処分にしたそうだな』
 イージェンはこの審議の対象が、自分のことでなく、ジャイルジーンの引責問題であることがわかってきた。マシンナートの内紛などどうでもいいが、今後のマシンナートの方針を左右することになりそうだと耳を傾けていた。
『強行策に出たのは、バルシチスを大教授選で勝たせるためだな』
 ジャイルジーンは目を見開いたまま、首を振った。
「いえ、違います、そうではなくて、ファランツェリのオペレェィションコゥドを使って、あの子の実績を上げさせてやろうと」
『ファランツェリにもっとアルティメットについて教えておくべきだったな、そうすれば、コゥド変更をしなかったろう』
 パリスの冷たい声が響く。
『どうせ、あと五年も待てないと思ったのだろう?移植した心臓の調子はどうだ?年齢的にもこれ以上は持ちそうにないな、一年がいいところか』
 ジャイルジーンが胸を押さえ、両膝を付いてうなだれた。
『ジャイルジーン大教授を停職処分にする。これは最高評議会の決定である。あとわずかの命が尽きるまで、ファランツェリをかわいがってやれ』
 マシンナートなど不愉快な連中ばかりだ、だが、仮にも夫に対して情もなにもない言葉につい口を挟んだ。
「パリス議長だったな、あんたは、ファランツェリの母親だろう。だったら、このじぃさんの妻じゃないのか。夫たるものにそんな情のかけらもないことを言って…病人のようだし、少しはいたわってやったらどうだ」
 パリスが驚いて目を見開いた。その顔はまさにファランツェリを大人にした顔だった。
『何を言ってるんだ、このシリィは』
 評議会のメンバーたちの嘲笑がモニタの向こうから聞こえてくる。パリスが不機嫌そうに言った。
『まったく、素子というものは…』
 どうせバルシチスと同じように口が達者とか言いたいのだろう。
『確かにファランツェリの母はわたしだし、父はジャイルジーンだが、インクワイァには結婚の制度はない。子どもも、優性管理局で精査した最適な組み合わせで体外受精して、ワァカァの子宮で育て、出産させる。わたしは一度も妊娠したことはないが、子どもは七人いる』
 孕んだことがなくて、子どもが七人?
 イージェンには意味がさっぱりわからなかった。気分がひどく悪くなった。この部屋に、いや、バレーの毒気に当てられたようだった。
『最後のアルティメットが隠居してから二年、長くとも五年待てば死ぬ。そうすれば、監視衛星が使えなくなるから、通信衛星を打ち上げることができたのに。このままではアルティメットが黙っていないだろう』
 最後のアルティメット…。それはヴィルトのことか?あと五年で死ぬのか。イメインのように…。
「アルティメットというのは、大魔導師のことか」
 返事はなかった。
 イージェンがモニタを見回した。勝ち誇ったような表情のニーヴァンとかいう老人以外は無表情でこちらを見ている。ジャイルジーンは胸を押さえてしゃがみこんでいた。心臓がどうとか言っていたので、発作でも起きたのかもしれない。近寄り、覗き込んだ。
「胸が苦しいのか」
 心配そうに尋ねるイージェンに青白い顔を上げた。
「あ、…ああ…」
 胸に手を当てると中で心臓が異様に膨れている。鼓動も激しく、息も切れそうで、目がうつろだ。振り向いてパリスに向かって言った。
「おい、医者を呼んでやれ」
 パリスは別のメンバーに命じた。
『トリスト、バルシチスを呼べ』
 一番若い男が、返事をし、手元をいじっていた。
「うっ…うっ」
 ジャイルジーンが白目を剥いて気絶しそうだった。イージェンが床に横にして胸に手を当て、擦った。
「深く息をしろ」
 息ができないようだ。胸に当てた手のひらに魔力を集中させた。体内の傷を治したり、出来物を除いたことがあったので、心臓を落ち着かせることもできるかもしれない。手のひらが白く輝いた。その光が胸に吸い込まれていく。ひどく苦しそうだった顔が和らいできた。イージェンを見て、戸惑った顔をした。
「言いたいことがある、パリス議長」
 イージェンが振り返りながら尋ねた。
「ミッシレェで王都を攻撃するのはひどすぎないか、戦争するにしたって、やり方があるだろう」
 パリスが険しい顔で睨んだ。
『殺戮者の滓(かす)が、どの口で言うか』
「殺戮者って…」
 イージェンが戸惑ってパリスを見つめた。ようやくバルシチスがふたり連れてやってきた。ジャイルジーンの胸の音を聞き、透明な液の入った袋の先の針を腕に刺した。ふたりで車のついた担架に載せて運び出していった。
『きさまは学院長ではないだろうから、知らんのは当然だが、きさまら素子の始原であるアルティメットたちは残虐な殺戮者だ』
 大魔導師たちが殺戮者?
『紀元前、五人のアルティメットたちは、テクノロジイを憎み、ほとんどのマシンナートを殺戮し、地上に数多あった都市を全て消滅させた。あいつらに媚を売ったごく一部の連中が、偉大なるテクノロジイを捨て、無知蒙昧で愚劣なシリィに成り下がったのだ。五大陸の王国はあいつらが造り出した《おとぎの国》、われらマシンナートこそが、この惑星(ほし)の真実の主(あるじ)だ』
 いきなりパリスのモニタが切れた。他の六つも次々に切れていく。暗闇の中に残されたイージェンに、バルシチスが話しかけた。
「一緒に来てもらおうか」
 バルシチスが歩き出そうとしたが、イージェンは動かなかった。
「今の話…本当なのか」
 バルシチスはうなずいた。
「わたしもまだ詳しく知る立場ではないが、そう教えられた」
 これまで読んだ書物には、万物の理《ことわり》に従い、空と大地と共に生きる民に対して、テクノロジイという自然に逆らう摂理を信奉しているマシンナートは異端であると書かれていた。
 ここから出よう、仮面に会って、確かめるんだ。本当のことかどうか。
 どんな堅い金属でも溶岩の熱さにはかなうまい。扉に走り寄り、右手を振り上げて輝かせた。バルシチスが大声を出した。
「イージェン、わたしと一緒に来ないとアリスタたちがどうなるかわからんぞ!」
 振り向くと、バルシチスが側まで来ていた。
「どうなるかって…」
「付いてくればわかる」
 そう言い、扉を開けた。心配になってきた。逃げ出したい気持ちとアリスタたちに何かあったらと思う気持ちがせめぎあった。確認してからでも逃げ出せる。そう思って付いて行った。
(「イージェンとマシンナートの都」(完))


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