セレンを連れたエアリアは、馬でカーティア王都に向かっていた。おそらくヴィルトが向かっているはずだった。 一晩野宿し、途中、湧き水の出ているところで馬を止め、水を飲んだ。セレンが石の上に座りこんでいた。新鮮な水を入れた筒を出した。 「飲みなさい」 セレンが首を振った。 「セレン、イージェン殿は…」 あまりに元気のないセレンに、エアリアが言いかけたとき、バサバサッと鳥が飛び寄ってきた。遣い魔だった。足筒から伝書を取った。中身を読んで青ざめた。 「そんな…」 思わず空を見上げた。セレンに水の筒を押し付け、少し待つよう言い、空に飛び上がった。林の上に出て、王都の方から海岸側に向かって目を動かした。西の平原に何かが動いている。目を凝らし、その何かに焦点を当てると、トレイルであることがわかった。まもなく南方海岸近くに到達しそうだった。トレイルの側まで行ったほうがよいようだ。一度地上に降りた。 「セレン、ヴィルト様からのご指示があったので、ちょっと行ってくるから、ここで待ってて」 セレンは弱々しくうなずいた。すぐに帰ってくるからと再び空に飛び上がった。トレイルを目標にして近づいた。北の方角に黒点が見えてきた。おそらくそれが王都から逃げてきたマシンナートの飛行物だろう。自分にどれだけできるか、しかし、やるしかない。 その時、トレイルの屋根のあたりが光った。矢のようなものが飛び出し、北に向かって飛んでいき、飛行物にぶつかった。 「ああっ!」 エアレアは思わず声を上げた。飛行物は煙と火を出しながら地上に落ちていく。その中からひとつ影が落ちていき、布の傘を広げて平原に下りて行った。必死に飛んだ。飛行物は平原から森の方に向かっていき、バリバリと木をなぎ倒して突っ込んでいった。かなり木を倒してから飛行物は止まった。煙と火であたりは白くなっている。木にも燃え移っている。煙を吸わないように口元を覆い、木に引っかかっている飛行物の中を覗き込んだ。中には七人ほど倒れていた。みな、頭や胸から血が出ていて、ぐったりと倒れるか、しゃがみ込むような格好をしていた。ふわっと浮き上がったまま中に入り、生きているものがいるか、確認して回った。椅子の下にマシンナートではない女が倒れていた。胸にアウムズの火花の後があり、血が染み出ていた。マシンナートたちはみな、死んでいた。女を抱きかかえ、外に出た。出たとたん、飛行物はズズーンッと音を立てて木の上から落ち、爆発して、破片を撒き散らした。いったん女を森の外に運び、再び森に戻って、水を出し、火を消した。幸いそれほどひどく燃え広がっていなかったので、ほどなく消えた。 森の外に置いた女の元に戻った。運び出したとき、すでに息絶えていた。髪も服も乱れ、顔が汚れていたが、美しい女だった。ラウドの妃になっていたかもしれないカーティアの王女。助けられなかった。 「ごめんなさい…」 涙がこぼれた。手ぬぐいで顔の汚れを拭き、ラウドの外套にその身を包んだ。抱き上げてセレンを置いてきた場所まで戻った。 馬が足元の草を食んでいた。セレンの姿がなかった。まさか、海岸に戻ろうと…。包みを置き、周囲を探した。 「セレン!」 来た道を辿っていくと、よろけるようにセレンが走っていた。 「セレン!待って」 声に驚いたセレンが地面に出ていた木の根に足を取られて転んだ。エアリアが助け起こした。 「追って行ってはだめよ、カーティアの王都にヴィルト様がいらっしゃるから、いきましょう」 エアリアがセレンの手を引いて馬まで戻った。赤い外套に包まれたものを見てセレンが震えた。 「カーティアの姫様よ…マシンナートにさらわれて…」 セレンは戴冠式のときに見た美しい姫を思い出し、目が痛くなった。 エアリアは近くの村まで遺体を馬に載せていった。村で荷車を買い、馬に引かせて王都へと向かった。
|
|