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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第40回   セレンと南海の戦い(2)
 通路のあちこちに管が張っている。床は金属(かね)のすのこのようで、下が見える。下にも通路があって、マシンナートたちが行き来していた。上を見上げると、上には通路に沿って管が走っている。対面からヒトが来ると壁に背中をつけて、すれ違う。イージェンの風体にみな驚いていた。梯子を降り、艦底に着いた。ゴオーッという唸るような音がした。壁に張り付いている階段の下には、二階分ほどの空間があり、そこに大きな筒があった。湯気のような白い煙がところどころから噴き出している。
「これは…プラァイムムゥヴァか」
 トレイルのタアゥミナルで調べたとき、海中戦艦《マリィン》のプラァイムムゥヴァの動力源は、《ペトロゥリゥム》と書かれていた。カサンが不愉快な視線をイージェンに向けた。
「そうだが、そんなことを知ってどうする。きさまにはなんの意味もないだろうが」
 イージェンが大きな筒を見下ろして言った。
「知らないことを知りたいって気持ちは、無意味か?」
 カサンが驚いて、イージェンの横顔を見つめた。知らないことを知りたい。未知なる現象についての探究心。それはインクウワィアにとっても意義ある動機付けだった。
「魔力を認めてほしいとは思わないが、知りたいって気持ちはわかってほしい」
 カサンも筒に目を向けた。
「…マリィンのプラァイムムゥヴァは、圧縮して高温になった空気に《ペトロゥリゥム》を吹き込んだ時に起きる、自己着火をもとにした爆発でピストンを押し出す拡散燃焼によって…」
 急にマリィンについて、延々と講釈を始めた。移動しながらいろいろと説明してくれた。イージェンが質問することにも答えた。
階段を降り、プラァイムムゥヴァの部屋から出て、船首に向かっていく。その部屋には細長い筒が何本もあり、大きさも大小さまざまあった。
「これは?」
 矢羽に似ているものがついている。
「大きいのは、ミッシレェだ。水中から発射して、海上に飛び出し、攻撃目標に飛んでいき、破壊する。小さいほうは、トルピィドゥ。これが水中を進んで、軍船を下から攻撃するんだ」
 ミッシレェというものに触れた。側にいたつなぎ服の男が怒鳴った。
「おい!触るんじゃない!」
 イージェンはすぐに手を引っ込めたが、しびれるような感覚が残っていて、気分が悪くなっていた。
「こいつは…どのくらいのところまで飛んでいく?破壊するってどのくらいの威力なんだ」
 カサンがちらっとミッシレェを眺め、近くのモニタに寄っていった。イージェンも後ろから覗き込んだ。タアゥミナルを使って調べている。
「このミッシレェはあまり遠くまでは飛ばないタイプだ…射程距離…は、八百から一千カーセルだな、威力は落下地点から半径約十カーセル、跡形もなく破壊される」
 イージェンの頭にこの大陸の地図が浮かんだ。遠くまで飛ばないとはいえ、海岸線から一千カーセルの距離には、カーティアの王都はもちろんのこと、ぎりぎりだが、エスヴェルンの王都も含まれる。半径約十カーセルといえば、王都をまるごと飲み込む範囲だ。トルピィドゥは対南方軍用といえるが、このミッシレェは。
「そうか、すごいんだな、マシンナートのテクノロジイは」
 イージェンが感心してみせた。梯子を登って上の階に向かった。ランチルゥムはトレイルと似たようなものだった。乗員が作戦を説明されるブリーフィングルゥムでは、何人かが集まっていた。
「…本日、1500に決行される作戦は、ラッカア班がトルピィドゥを担当、上空からの記録はシーヴ班がプテロソプタで行うことになっている。シーヴ班はすでに弐号車に待機している。南方大島軍の軍船は、百五十隻、昨日800に出撃、途中天候不良のため、遅れ、今朝、沖合い十五カーセルまで接近している」
 百五十隻とはかなりの数である。ただ、それで領土侵略は難しいことはわかっているはずだ。南方大島の事情はわからないが、どうしてもカーティアを脅かしたいのだろう。
そのまま梯子を登り、出入り口に着いた。テンダァには運転士、アリスタとセレンが乗っていた。
「師匠!」
 セレンが身を乗り出して落ちそうになった。アリスタがあわてて止めた。イージェンが後ろに立っているカサンに聞いた。
「あんたは残るのか」
 カサンが足元を見た。
「いや、プテロソプタに乗せてもらうから、陸に戻る」
 胸からあの四角い小箱を出して、表面を叩き、話し出した。
「…見学は終わりました、陸に上げます。わたしはシーヴ班に同行します」
小箱を胸に戻した。運転士が嫌そうな顔をして手を伸ばした。カサンは尻込みしてなかなか手を握れなかった。運転士がいらついた。
「さっさとしてください」
 イージェンがカサンの腰に手を回し、ひょいと持ち上げた。
「な、何を!」
 カサンが顔を真っ赤にした。ふわっと浮き上がり、そのまま、テンダァに飛び移った。
テンダァが動き出し、ゆっくりとマリィンから離れ、次第に速度を上げて、桟橋に戻った。乗ってきたモゥビィルの中に置いていた荷物を出した。
「トレイルに戻らないの?」
 アリスタがモゥビィルに乗りながら尋ねた。
「海戦を見たい。終わったら、顔は出すつもりだ」
「トレイルのモニタで見られるわよ、調査班が中継するから」
 起こっていることを別の場所で見られるようにするのだという。興味はあったが、実際に見たいからと手を振り、モゥビィルが走り去るのを見送った。


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