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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第384回   イージェンと五大陸総会(中)(1)
 四の大陸ラ・クトゥーラのサンダーンルーク学院長ソテリオスは、ターヴィテンに学院長ネルガルを迎えに行き、抱きかかえて、大陸総会が開かれるカーティアを目指した。ネルガルは、まさか、こんな短い間に大陸を渡るようなことが二度も起きるとはと激動の時流を感じて感慨深げにしていた。ソテリオスもネルガルも、心配していた異端の攻撃も防げたというので、戦後処理をどうするか心配はあったが、ひとまずは安堵していた。
 途中何度か休憩を取って一日半かけて到着した。学院の正面玄関を訪ねると、中の玄関広場でルカナが出迎えた。アディアと替わりますからと控室に呼びに行った。
「おふたりとも、遠路お疲れ様です」
 丁寧にお辞儀し、お疲れのところですがと東の館跡に案内した。四の大陸に戻ったときは、顔覆いをしていたが、今は外していた。さすがにソテリオスが顔をしかめていた。
「顔覆い、しないと」
 こちらではかえっておかしいのでとアディアがいなした。
 東の館は遺体を捜索するために一部掘り返していたが、まだボォムで爆破されたままになっているところがほとんどだった。
「二の大陸ウティレ=ユハニの王都は全体がこの状態だそうです」
 三の大陸ランスの第二王都は跡形もなくなってしまったと説明した。ふたりとも目を伏せ、犠牲となったものたちを悼んだ。
 少し歩きますかと学院までの道を案内しながら、エスヴェルンの王太子夫妻が条約締結のために訪問していると話した。
「ご夫妻でとは」
 ふたりして驚いていた。四の大陸では、妃が後宮の外に出ることはまずない。王女もずっと後宮で育ち、他国に嫁げば、そのまま後宮に入り、大公家に降嫁すれば、夫人や側室が住む『奥』に入ってしまう。しかも外出などはほとんどしない。まして夫妻でどこかに行くということはないのだ。
 もしできるなら、ジャリャリーヤに挨拶したいとネルガルが頼んだ。聞いてくるとアディアが迎賓館に飛んで行き、ほどなく戻ってきて、宿舎で会うとの返事をもらってきた。
 宿舎の入口にはエスヴェルンの護衛兵たちが立っていた。アディアにうながされて両側から扉を開き、三人を中に入れた。控室には、何人か侍女がいたが、その中で一番若い侍女が深く頭を下げた。
「いらっしゃいませ、妃殿下がお待ちです、どうぞ」
 ソテリオスが、もしやこの侍女がエアリアが言っていた同じ年頃の侍女かと軽く顎を引いた。奥の扉を開いて、導いた。
正面奥の壁前にジャリャリーヤが、赤味がかった金髪を結い上げて腰の部分から広く広がっている薄翠のドレスで立っていた。
「じいや!」
 ネルガルを見て、二、三歩足を進めた。
「おおっ……」
 ネルガルが胸に手を当てて、深くお辞儀した。
「姫様……いや、お妃様、元気なご様子で、よろこばしいことです」
 ジャリャリーヤがこちらに座ってと椅子を勧めた。
「ふたりとも遠くから大変だったわね、こちらでお茶でもどうぞ」
 こんな気遣いをするとはとソテリオスが目を見張り、戸惑った。侍女に茶を入れるよう言い、自分も椅子に座った。
「こちらに来る前にじいやに会ってきたかったのに、その暇もなくて」
 侍女が持って来た茶碗を載せた皿を受け取って、腰を浮かしてネルガルに差し出した。ネルガルが恐縮して受け取る手を震わせた。
「もったいないことを……ありがとうございます」
 ジャリャリーヤ、ソテリオス、アディアの前にも侍女が茶碗を置いて行った。
「ご婚礼おめでとうございます。王太子殿下と末永くおしあわせに」
 ネルガルが祝辞を述べ、ソテリオスとアディアも頭を下げた。ジャリャリーヤが恥ずかしそうに頬を染めてありがとうとつぶやいた。
「じいや、わたし、この髪が嫌いだったの、母上のようなきれいな金色じゃなくて」
 ジャリャリーヤがそっと指先で髪に触れた。
「でもね、王太子がとてもキレイって言ってくれたの、夜明けの海の波みたいって」
 それにとても大切にしてくれるのとうれしそうにはにかんだ。
「おお、それはよろしゅうございましたな、とてもお優しい方のようで」
 ネルガルが皺の間の目から光るものを溢れさせた。
「学院長、王太子がいつか父上や母上にご挨拶に行きたいって言っているわ、そのときはよろしくね」
 ソテリオスが茶碗を皿に戻して了解した。
「もちろんです、妃殿下がおしあわせそうで、両陛下もお喜びになられるでしょう」
 ジャリャリーヤがはにかんでうなずいた。
 あまり長居もご迷惑とお茶をごちそうになった礼を言って、宿舎を出た。学院に戻る途中、ソテリオスがアディアに尋ねた。
「アディア、エスヴェルンから妃殿下の振る舞いについて苦情が来ていたのだが」
 エスヴェルンからの伝書には、婚礼式の前、式中、その後もジャリャリーヤの振る舞いがひどく、王族としてのしつけがされていない、謝罪に来るべきだと書かれていたのだ。この総会前にサリュースに会って謝罪することにしていた。
「王太子殿下に優しくされて、すっかり改められたそうですよ」
 そうだったのかとほっとしていた。あんな明るいジャリャリーヤははじめて見たので、戸惑ってしまったが、そういえば、幼い頃は病気の時以外は、素直で愛らしいお子であったと思い出した。
「王太子殿下もよいお人柄のようだし、あとはお世継ぎが出来れば」
 ネルガルがそれまで生きていられるかなとうれしそうに笑った。

 翌日夕方には、ベレニモス鉱山に視察に行っていたジェデル王とラウド王太子が戻ってきた。夕刻ではあったが、学院長たちもほぼ集まったので、講堂で顔合わせすることになった。大陸ごとの区域に分けた机にそれぞれ名札が置かれていて、その名札の前に封書と総会資料が置かれていた。学院長たちが、ぞろぞろと長い布を引き摺るようにしながら、次々に講堂に入ってきて、名札の席に座って行った。
「これはなかなか」
ネルガルが名札を手にとって極上の出来映えと感心した。
「大魔導師様が作られたのかも」
 他の学院長たちも見事だとうなり、土産に持って帰りたいと話しているものたちもいた。
 到着している全員が席に着いたのを確認して、ダルウェルが議長席に立ち、頭を下げた。
「方々、遠方よりの来訪、感謝する。まだ、三の大陸ランスの学院長が到着していないが、本会議は明日午後より開くので、その前に手元の封書と資料に目を通しておいていただきたい」
 ひとまず順番に、国名と名前を名乗り、全員顔と名を覚えてほしいと指示した。
 一の大陸からと手を差し伸べた。
 相変わらず魔導師の装束ではなく、白い短い外套を両肩で止めた軍服のような服装のサリュースが立ち上がった。ぐるっと首を巡らせて、小さく顎を引いた。
「エスヴェルンのサリュース」
 続いて議長席のダルウェルが壇上の前に出てきた。
「カーティアのダルウェル、議長を勤めさせていただく」
 ルシャ=ダウナのベリエス、東バレアス公国のファン・ヴァルと後継者のルシアン。
 二の大陸ウティレ=ユハニのユリエン、ガーランドのアルバロ、スキロスのルメアァル、ハバーンルークのエディエン、ヤンハイのディウフ、ドゥルーナンのアル・ファシル、クザヴィエのリンザー。
 三の大陸セラディムのアリュカ、アラザードのランセル、東オルトゥムのメレリ、北リド・リトスのヴァチェス、イェンダルクのリュシュトゥ、カルマンのルーサー、ドゥオールのゾルヴァー。
 四の大陸サンダーンルークのソテリオス、ターヴィテンのネルガルと後継者アディア、アジュールのセルザム、サウダァルのヴァイト・ルゥリ、ケルス=ハマンのアルスラン、ゾルタァルのネグベェイ、シンブルゥ=ファムのアトリオス、西オルダのゼノン、東オルダのジュヴィン、カラカムのサ・アリム。
 五の大陸イェルヴィールのヴィルヴァ、カンダオンのテェーム、シヴァンのアグリエル。
 以上、三の大陸ランス以外の紹介が終わり、それぞれ封書と総会資料を持って、退席した。
 封書は各学院長名が印された大魔導師イージェンからの伝書だった。そこには、イージェン自らの言葉で生い立ちと真情が書き綴られていて、正式ではないながら妻とした自治州領主の娘との間にテクノロジイによって子どもが出来たこと、その子どもを産ませることにしたことまで書かれていた。
 学院長室で読み終えたダルウェルが頭を抱えた。
「あいつ、なんでここまで……」
 最後に再認決議が提出されたことを受けて、いかなる結果となろうとも従うが、戦後処理は別途討議とすることと結ばれていた。
「隠しておいてあとでばれたらよけいにまずいからってさ」
 アートランが学院長室の向かいの席に座り、どっと背を預けた。
「承認派と思ってたものも、これで撤回派になるかもしれんぞ」
 どうかなとアートランが天井を見上げた。
「ランスのじじいは、これもネタにして撤回させようとするだろうけど……」
 さきほどランスのサディ・ギールと副学院長フィナンドが到着したとの知らせが来て、ルカナが封書と資料を渡してきたところだった。
「はあ、なんかとても怖い方だったわぁ」
 緊張したとルカナがぐったりしていた。
「あのじじい、そんなに魔力は強くないんだ。ただ、厳しく当たるからみんな縮こまってる」
 粗相すると折檻だしとアートランが肩をすくめた。
「女の魔導師が孕むと流れるまで杖で叩くぜ」
 ダルウェルが険しく睨み、ルカナが青くなった。
「そんなひどいことを」
 男の方は身体中の毛を剃られるくらいだけどと机の上の皿に手を伸ばして焼き菓子を摘み、ガリッとかじった。
「今夜はいろいろと動きそうだぜ」
 さっそくランスの副学院長が三の大陸の学院長たちやウティレ=ユハニのユリエン、そのほかの大陸の何人かもに声を掛けていた。
すでに四の大陸のケルス=ハマンのアルスランは自分からサディ・ギールを訪ねていた。


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