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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第37回   セレンと鉄の箱《トレイル》(4)
 イージェンはルゥムの中にも『耳』をめぐらせていた。他のマシンナートたちは別の話をしていた。
「…あれが魔導師だって…」
「…オゥトマチクの弾を手で止めたってほんとかな?…」
 セレンは食欲が出ないようで途中で食べるのをやめていた。イージェンがヴァンに尋ねた。
「ここに書庫はないのか」
 ヴァンは、イージェンが手を付けなかった分も貰い、すっかり平らげていた。
「書庫?そんなのはないな、だいたい本ってのがない」
 イージェンが驚いた。
「本がないって!どうやって学問を学ぶんだ?」
 ファランツェリが白濁した液体を飲みながら答えた。
「タアゥミナルとデェィタを使って勉強するんだよ」
 イージェンが考え込んでから顔を上げ、ファランツェリを見つめた。
「それを見せてもらえないか」
 ファランツェリはイージェンに見つめられて、目を見張った。
「いいわ、後で見せてあげる」
 ファランツェリの代わりにアリスタが約束してくれた。ファランツェリも食べ終えた。そのとき、ファランツェリの胸で音がした。セレンがイージェンにしがみついた。
「あ、ごめん、脅かしたかな?」
 ファランツェリが胸の袋から小さな箱を取り出した。その箱から紐のようなものを伸ばし、その先の丸い円盤を耳に入れた。
「戻れって?こっちに泊まってく予定なんだけど…明日までってなにそれ…わかった、こっちでやる」
 ファランツェリががっかりした顔をした。
「明日までにオペレィションコォゥド作り直せだって。軍務監が文句つけたらしい」
 ヴァンが皿などを重ねて片付け始めた。
「こっちのタアゥミナルでやるのか?」
 ファランツェリが箱の上に指を滑らした。
「うん、戻る時間が惜しい」
 箱の上が淡く光った。ヴァンとアリスタが盆を片付けて戻ってきた。タアゥミナルなるものを見せてくれるというので、そのまま三人についていった。ランチルゥムから出て、すぐのところにある梯子を登った。一階上がり、また進み、取っ手のない扉の前に来た。アリスタが胸の袋からファランツェリのもっていたものと同じ小さな箱を出して、扉の横の箱と同じくらいの灰色っぽいガラスに向けた。ピッと音がして、扉が開いた。中はさきほどの部屋と同じくらいなので、あまり広くない。椅子もふたつ。五人では窮屈だった。
「坊やと俺は出てようか。ブリーフィングルゥムでお守りしててやるよ」
 イージェンはセレンを自分の前に連れてきた。
「だめだ」
 ヴァンがファランツェリと呆れた顔を見合わせた。アリスタが、壁際の机の前に座り、机の上にある平らな板の上にたくさん並んでいる釦の中のひとつを押した。ヴィーンという音がして、その板の前にある四角いガラスのようなものが光った。そこに文字が浮き出た。
『ウルティミュウリア、テクノロジイの頂(いただき)』
 ウルティミュウリア…なんだろう。聞いたことのない単語だった。
「これがタアゥミナルで、これがモニタ」
 指差していく。
「タアゥミナルは、端末って言って、何台もあって、全てベェエスに繋がっていて、そこにいろいろな知識、情報、その処理機構が入っている。タアゥミナルで、ベェエスに情報を入れたり、出したりするの、で、これ、ボォゥドで言葉や数字を入力するのよ」
 平たい板の釦をボンボンと押した。モニタの中に文字が現れ、その下にもまたたく間に文章が現れた。
『モゥビィル…プラァイムムゥヴァの動力によって車輪を回転させ、軌条(軌道)や架線によらないで走行する車両…』
『トレイル…移動式ラボラトリイ、連結も可能…』
 アリスタはいくつかの単語を入れて、表示していった。途中でファランツェリが止めた。
「ちょっと使わせて、間に合わなくなっちゃう」
 アリスタがいくつか釦を押してモニタから文字を消した。ファランツェリが席を替わり、ボォゥドを使い始めた。打ち始めたのは文字と数字の羅列で、意味のある単語には見えなかった。延々と打ち続けている。イージェンはずっとモニタに釘付けされていた。
「イージェン?ここにいてもしかたないから、ブリーフィングルゥムに行きましょ」
 アリスタが声を掛けたが、イージェンはセレンを椅子に座らせ、ファランツェリの横で動きをじっと見つめていた。途中でファランツェリが手を止め、振り仰いだ。
「やりにくいんだよねぇ、上から見られてちゃ」
 するとイージェンは、セレンを膝の上にして、椅子に座った。
「気にしないで続けてくれ」
 セレンは目を閉じてイージェンの胸に頭を預けた。ファランツェリが不可解な目で見返したが、打ち込みに戻った。
「ほんと、へんなやつだな、見てたってわからないだろうに」
 ヴァンが呆れてアリスタの肩を突付いた。
「行こう、ちょっと疲れたし部屋で休もうぜ」
 アリスタも野営やら雨に打たれたやらで疲れてはいた。ファランツェリにあやまった。
「ごめんなさい、休ませてもらうわ」
 イージェンの方をちらっと見たが、相変わらずモニタを見つめていた。ファランツェリが釦を押しながら返事した。
「いいよ、このヒトたちは後であたしが部屋に連れて行くから」
 アリスタとヴァンは出て行った。
 何時間もずっとファランツェリは打ち続けていた。途中で、部屋に行くか、イージェンに尋ねた。イージェンはもう少し見ているというので、そのまま続けていた。
 ときどき、モニタの右隅にある小さな白い四角に文字を打っていた。それは会話のようだった。
『…行番号5589、棘(ソォン)、抜いて』
『…了解、行番号5002、5098の棘抜き完了』
『…少し休憩…』
 ファランツェリがモニタを最初に戻して、立ち上がった。
「喉渇かない?」
 イージェンに尋ねた。セレンはとっくに寝ていた。
「いや」
 ファランツェリが扉に向かいながら言った。
「ちょっと飲み物取ってくるから」


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