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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第328回   イージェンと極南の鋼鉄都市《キャピタァル》(上)(2)
『ヴァド!おまえも頭悪いなっ!いいかげん、俺にはどんなアウムズも効かないって学習しろよっ!』
 ヴァドは完全に頭に血が登った。バァイタァルを取っている機器の表示がピピッと警告音を出した。
「うるさいっ!頭が悪いだと!?滓(かす)のくせに、ぼくを侮辱したなっ!」
憤りで震えが止まらない。
『このままじゃ、おふくろに怒られるなっ!どうする?!ヴァド!』
かあさんに怒られる!かあさんに怒られる!嫌だ、嫌だっ!
「くそっ、なんとしても殺してやる!」
 神経系の数値表示が赤い警告域にまで達していた。
「レヴァードのボォムを爆破してやる!」
 装甲車が急停車して中から班長たちが飛び出てきた。
『やれるもんなら、やってみろ』
素子が挑発してきた。ヴァドが釦を押した。そのとたん、ビビビッと痺れが頭の中を駆け巡り、激痛が走った。
「ああっ!!」
 身体が何度も大きく揺らぎ、何本も入れている点滴の針が皮膚を破って外れ、補助装置と繋がっている線も千切れそうになった。
「な、なんだっ……」
 目の前が一瞬真っ白になり、頭部装着ディスプレイ装置が暗転してしまった。全身が感電したように痺れていた。動悸が激しく、心拍数が上昇していく。
 痺れている指先をなんとか動かし、監視キャメラの映像を映そうとしたが、ザーッと砂嵐のようになり、まったく映らない。班長たちに連絡しようとしたが、検索不能となってしまった。無線が使えなくなったのかと有線通信で第十三階層の中央管理室に連絡を入れた。
「無線が通じない。装甲車が通過していた幹線道路、どうなってる」
 管理室の室長が、道路は見えないが、空にきらきら光る粉が舞っていると報告した。 第十三階層だけ無線が使えなくなったようだった。
「光る粉……」
 ヴァドはその粉が原因と推察した。光る粉など『魔力』に違いない。
 頭痛がひどい。頭の中でバチバチと音がする。
 吐き気がして、粘食が食道を逆流してきた。ぐぶっと咽から溢れてきて吐いた。吐いたものが口から胸に垂れていく。その吐瀉物が生暖かく口元から胸を覆い、胃液の混じったすえた臭いが鼻を刺激した。
「気持ち悪い……気持ち悪いよっ……」
点滴の針が抜けたところから出血して痛い。主治医のディクスを呼んで治療させよう。
だが、ディクスを呼び出しても通じない。すぐに通じるようにしなければ。ディクスでないと処置できない。痛みと吐き気を早く解消したい。
「第十三階層の粉を排出……」
 ヴァドがまだ痺れている指先でボォウドを叩き、第十三階層を密閉した。空気を散布している送気管を止めて、排気管を最大出力で動かした。
 すさまじい勢いで第十三階層に散らばっている粉が排出されているはずだった。
「早く、繋がれ、早く」
ようやくモニタに第十三階層の様子が映った。ディクスの小箱にも無線通信が届いた。だが、受話しない。
「どうした、ディクス」
 幹線道路の装甲車の近辺を映し出した。装甲車は見当たらず、たくさんのワァカァたちが倒れていた。装甲車はじめモゥビィルが何台も建物にぶつかったように壊れていた。
「あっ……」
 身体を振って叫んだ。
「くそっ!くそおぉぉぉっ!」
 頭の中が焼けているようなきな臭い感じが続いている。眼の前もパッパッと閃光が光り、身体が何度も痙攣していた。
 とっくに補助装置に切り替わって睡眠をとる時間になっていたが、補助装置との間の導線が切れたところがあったのか、切り替わらなかった。
 第十三階層から排出された空気とともに光る粉が別の階層に流れていったが、ヴァドは気が付いていなかった。

 レヴァードを抱えたアートランは、側道を飛び、なおかつ天井を破って上階に向かったが、途中でそっと床に降り立った。
「おっさん……やばい……ねむい……」
 魔力をたくさん使うとどこかでやってくる消耗だった。食事をしてなん時か熟睡するとかなり回復するのだ。
「疲れたのか」
 少し寝ないとだめだ、それに腹減ったとぐったりした。
「ここじゃあ、マシンナートの食料しかないが」
 それでも食わないよりましだと調達することにした。側道のところどころに点検修理用にワァカァが出入りする扉があった。その側にまで行き、扉の取っ手をねじ切った。レヴァードがそっと扉の外に出た。管理区の通路で、一台モゥビィルが通過していった。管理区の広場では、ワァカァが荷物の搬送車や搬送台を動かしていた。レヴァードの服装で教授であることはわかる。インクワイァはこの区域には降りてこない。だからだろう、みんな不思議そうな顔をして頭を下げた。一番近くにいた若い男に近付いた。
「君、ちょっと」
 男が頬を赤くしてお辞儀した。
「なにか、食べるものないかな。上層地区に戻る途中なんだが、空腹がひどくてね」
 ショコラァトのような菓子でもいいんだがというと、手をつなぎ服で拭いてからポケットから銀色の包みを出した。
「……ヴォンヴォですけど……」
 砂糖でできた硬い玉だ。ありがとう、助かると受け取った。なにかと回りに集まってきたので、さっとその場を離れた。
「これだけじゃ、しょうがないが」
 あまりうろついてヴァドに見つかるといけないので、とりあえず戻った。
「こんなものしかなくて」
 ヴォンヴォを口に入れてやった。
「うん、これは砂糖だ」
 身体の力になると術を掛けながらゆっくりと舐めた。
「おっさんは腹空いてないか」
 レヴァードが食事会で少し摘んだから大丈夫と首を振った。
「食事会の部屋に残された連中、殺されたぜ」
 『毒気』を流されてと聞き、レヴァードが眼を伏せた。
「そうか……拘禁か死刑かと思ってたが、あの場で……」
 タニアの姿を思い浮かべた。若い頃、すでに医療棟主任として華々しく活躍していたタニアに憧れていた。自分は遠くから見ているだけだったが、言い寄る男は多かったはずだ。だが、なぜか浮いた噂はなかった。
「逆らうものは容赦なく殺していくつもりだろう」
 アートランがこくっとうなずき、眼を閉じた。
「二ウゥルくらいぐっすり寝るから」
 それまでここにいようとすうっと寝息になった。レヴァードがあぐらをかいた膝の上に抱き上げて、一セルほどもある太い管に寄りかかった。

 港口に出るために、パァゲトゥリィに向かったカトルたちは、箱車の終点から管理区に入り、モゥビィルを奪い、螺旋回廊を上っていった。第十階層までは順調だった。だが、第十一階層に上がったところで、特殊班の班員たちに見つかってしまった。後ろから装甲車で追いかけてくる。屋根が開いて中から狙撃手が出てきた。
「撃って来るぜ!」
 ヒィイスが応戦しようと長身のオゥトマチクを構えた。
「待て、俺が撃つ」
 運転していたカトルがピラトと替わった。みんなを座席に伏せさせた。狙撃手はふたり、撃って来た。
 ピシュンッと弾丸が人造石の通路に当たった。車輪を狙っているのかと思ったが、車間距離が縮まってくると、モゥビィルの後部に当たった。
「これで違反者じゃなく犯罪者だな」
 カトルがつぶやき、引き金を引いた。ピシュンッピシュンッと音がして、二発づつ発砲し、狙撃手の頭を撃ち貫いた。撃たれたふたりが仰け反りながら車内に崩れ落ちていく。
「ひぇっ、うめぇ!」
 そろっと頭だけ出して見ていたヒィイスが感心した。
「ほんと」
オルハも感心してカトルを見上げた。走りながら、しかも小さな標的を正確に撃ち抜いていた。
装甲車の脇から多銃口のオゥトマチクが出てきた。いちどきにたくさんの弾丸が発砲できるものだ。
「やばいね、あれは」
 オルハがちらっと後ろを振り返った。見境なくガンガン撃ってきた。ピラトが速度を上げる。螺旋回廊をぐるっと回っているので、距離が開けば、発射角度が悪くて、撃てなくなる。
「振り切れっ!」
 カトルが怒鳴った。ピラトが崖っぷちぎりぎりの走路で走る。ピラトはなかなか運転技術が優れていた。
 装甲車の後ろにも護衛車が三台追っかけてきていた。距離が開いたので、真後ろではなく斜め後方に見えてきた。
「あの後ろのやつを先に始末だ」
 カトルがヒィイスとバイアスにも護衛車の車輪を狙うよう指示した。三人で一斉射撃した。何発もの弾丸が車輪に当たり、破裂はさせなかったが、衝撃があって、急停車した。
「あっ!」
 バイアスが叫んだ。急停車した護衛車は、操縦を誤まり、車体が揺れて後ろの護衛車とぶつかり、その後続にもぶつかって、三台が狭い回廊でぐるっと回転して壁に激突した。
「ひやっほーぅ!三台まとめて、ぶっ壊したぜっ!」
 ヒィイスは大喜びで、隣で喜んでいるバイアスと手のひらを叩き合わせた。装甲車からは当らない銃弾が発射されてきていた。


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