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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第280回   イージェンと罪深き島《イルディイクリィミネェル》(下)(2)
 みんなが船長室の隣部屋に集まり、最後にエアリアを抱いたイージェンが入ってきた。怪我しているようなのでみんなが心配そうに見ていた。リィイヴに寄りかからせるように座らせた。リィイヴが背中から抱き締めた。ルカナがぎょっとして見ているのに気づいてエアリアが少し緩めて下さいと小さくつぶやいた。
 イージェンが奥の窓を背にして座り、一堂を見回した。
「初めてのものもいるから、まず紹介しよう」
 左手の窓に寄りかかっているアートランを顎で示した。
「三の大陸セラディムのアートラン、俺の弟子だ」
 フンとそっぽを向いた。
「その隣、五の大陸イェルヴィールの学院長ヴィルヴァ」
 何でここにいるのかは知らんと言われ、ヴィルヴァが肩をすくめた。
「南方大島生まれのこの子どもがひとつになったので、引き取りに行き、帰り道にアートランと会い、船に寄ることにした」
 赤ん坊がヴィルヴァの腕の中でもがいていた。
「いずれ、魔力のある子どもは、五つになってから引き取りに行くようにしたい。物心ついてしまうが、ヒトの子として過ごす時期も必要だ」
 イージェンが仮面を向けると、ヴィルヴァがもがく子どもを見下ろした。
「五つは遅すぎる。三つがよいと思うが」
 魔力はだいたいふたつかみっつから発現がある。その頃だったらよいが、いつつにもなると、生まれた場所から親のことまで覚えてしまうので、問題が多いのだ。
「そうか。では、三つにするか」
「こいつは、異端の食い物が食えないので、島には戻さない」
 それに、両親はすっかり啓蒙されている、戻したくないというヴィルヴァに、イージェンも同意した。
 敷物の上に座り込んでいたヴァシルが浮かない顔でうつむいていた。
「一の大陸カーティアのヴァシル、二の大陸の魔導師だったが、カーティアの学院がマシンナートのユワン教授に全滅させられたので連れてきた。俺の弟子だ」
 はっとヴァシルが顔を上げた。
「その横が、一の大陸エスヴェルンのルカナ、カーティアに手伝いに来てもらっている」
 ちょこんと頭を下げた。右手のエアリアの肩に手を置いた。
「エスヴェルンのエアリア、俺の弟子だ。四の大陸で武装蜂起したグルキシャル教団の首謀者サイードと戦って怪我をした。サイードは石板に乗らなかったために学院が見逃してしまった魔導師だった。その経緯は後で話してもらう」
 エアリアがうなずいた。エアリアの背もたれの代わりになっているリィイヴが少し身体をずらした。
「エアリアの横にいるのが、マシンナートのリィイヴ、もとはインクワイァで、最高評議会議長パリスの息子だ。子どものころ頭を殴られて数値が落ちたのでワァカァに落とされた。俺と友だちになったために俺を脅す道具にされたので、逃げてきた。テクノロジイを捨てる覚悟で俺についてきている」
 ヴィルヴァが目を見張った。カサンもぎょっとして目を剥いていた。インクワィアであることはわかっていたが、パリスの息子であることは知らなかった。
「食堂にいたヴァンというワァカァも俺の友だちで、リィイヴと一緒に逃げてきた」
 リィイヴが目を伏せた。
「パリス議長、議長を罷免されたって」
 イージェンが固まった。
「…後で詳しく聞かせろ」
 リィイヴが了解した。
「リィイヴの隣が、レヴァード、マシンナートの医者だ」
 レヴァードがゆっくりと頭を下げた。
「で、最後がカサン」
 と言ったとたん、ルカナがあーっと声を上げた。
「あなた、王太子殿下をたぶらかした!」
 カサンがぎくっと肩をいからせた。
「注意するようにって手配書が回ってます!」
 イージェンが手を振った。
「確かに殿下をたぶらかしたが、今はこちらについている。勘弁してやってくれ」
 はあとルカナが肩を縮こまらせた。カサンが大きなため息をついてほっとした。
「イージェン様」
 ヴィルヴァがあの女性はと尋ねた。
「ティセアは、俺が二の大陸にいたときに妻だった女だ」
 先だって異端の攻撃のことで二の大陸に行ったときに再会し、連れてきたと話した。
 ヴィルヴァが黒い瞳をすぼめた。明らかに不愉快そうだった。
「学院長としては許せないだろうが」
 イージェンが後で詳しく話すと打ち切った。
 エアリアに四の大陸でのことを話すようにうながした。
 エアリアはまだ身体の力が入らないようでぐったりしていた。
「ターヴィティンのアディアとふたりでグルキシャルの聖地と言われている奥地に向かい、聖巫女の手引きで地下の通路に入りました…」
 そこでサイードの部屋を見つけたが、本人はいないので、気配を手繰って追っていき、マシンナートが造った地下通路に入ったのだ。地下通路と聞いてリィイヴたちが緊張した。
人造石でできた大きな筒のような場所でサイードと出会い、逃げたので追った。通路がかなり下っていて、追い詰めたところが、岩漿(がんしょう)の溜りを、黒い棒のようなものでかき混ぜているところだった。長い筒が天井から下がっていて、蒸気を集めていた。
「地熱プルゥムだ」
 リィイヴが目を険しくした。
「そこでサイードと戦いました」
 腹から溶解液を出してきたりしたが、引き寄せて殺そうとしたとき、隠れているよう指示したアディアが姿を見せてしまい、一瞬気を取られて、サイードとともに溜りに落ちてしまった。
「岩漿(がんしょう)に落ちたぁ!?」
 カサンが驚いて目を剥いた。一二〇〇度以上の岩漿(がんしょう)の中に落ちても無事という魔導師に改めて驚き、おそろしくなった。
溜りの中でどうにかサイードを突き放し、溶けてしまうのを見届けた。その後、サイードが仕掛けたらしく、地下水が流れ込んできて、溜りの水蒸気が激しくなり、爆発を起こした。地下通路を爆風が走り、途中、砂漠のあちこちに開いている砂の穴のひとつから噴出して、砂嵐になった。
「砂嵐の通り道に州都があり、避難も間に合わないので、鎮化の術を使い、鎮めました」
 魔力を使いすぎて、気を失ってしまいましたと胸で息をした。
「よくやった、言い伝えの規模にはならなかっただろうが、相当な威力だっただろう。回復してからでいいから、詳しい報告書を書いてくれ」
 エアリアがうなずきながらあの部屋の文書も書きますと言った。
「記憶したのか」
 エアリアがぼおっと天井を見上げた。
「はい、学院の書物を読んで、サイードが苦しんでいたのはわかりました。次第におかしくなっていったようでした」
 血で書かれた文字は途中から乱れて、叫びのような文句が並んでいるだけで、文章らしい文章ではなくなっていた。
「救いは死のみと何百回も書いてありました」
エアリアが少し声を震わせて、あの気分が高揚する薬を常用していたのではと推察した。腹を裂いて内臓を直接精錬し、胆汁や胃液を鋼鉄も溶かす溶解液にしていた。魔力を強めようとあの薬で気持ちを高めていたのだろう。
「俺もそう思っている」
 魔力で解毒できると言っても限界がある。能力を超えて飲んでいたら当然その影響が出る。
「気の毒とは思いましたが、殺すつもりでないと倒せないと思いましたから」
 生きて捕獲するためには手加減をしなければならない、それは同時に自分の身を危うくすることになるのだ。
「それでいい」
 横になってもいいぞと言われ、エアリアがもうルカナの目を気にすることもできないようでリィイヴに寄りかかった。リィイヴが抱き支えた。
「学院の書物って、何の本だったの?」
 リィイヴに聞かれて、イージェンが肩で息をした。
「それは話せない。学院内でも秘密の書物なんだ」
 リィイヴがわかったとエアリアの腕をさすった。
「グルキシャルについては、襲撃されたサンダーンルークに対して賠償させることで責任を取らせ、なるべく多くの信者を故郷に返して働かせることにした」
 『神』への信仰というより、貧しいために故郷を出てきたものたちもかなりいるので、そのようにしたのだと説明した。
「教団は緩やかに解散の方向に向かわせるつもりだ。今はまだ、サイードの掛けた就縛の術が解けていないものもいるからな」
 すぐに解散させると影響が大きく、また責任もあいまいになるからだ。それから、マシンナートの施設についてだがと続けた。
「地熱プルゥムはそのときの爆発によって破壊され、岩漿(がんしょう)がバレーを襲い、バレーは全滅した」
 リィイヴたちが青ざめた。
「バレー・カトリイェエムが…全滅…」
 カサンが下を向いて唇を震わせた。
「岩漿(がんしょう)は乱火脈となって暴走したようだが、ラカン合金鋼の外壁のためにユラニオゥム精製棟には向かわなかった」
 イージェンが一枚書面をリィイヴに渡した。
「これはエアリアが奥地に向かう前に地下通路で遭遇したマシンナートたちが運んでいたミッシレェの製造番号だ、何かわかるか」
 エリュトゥ語に変換されている番号を見て、その書面をカサンに渡し、イージェンに目を移した。
「おととし製造されたということだけしかわからない」
 カサンも首を振った。リィイヴが片手で小箱を出し、小箱の中のデェイタでわかるかどうかと検索してみた。
「…それはユラニオゥム・ミッシレェの製造番号…」
 デェイタがあったのは、小箱がもともとユラニオゥム精製棟の所長のものだったからだろう。
「やはりな。五基運んでいて、海岸の港からドアァアルギアという海中船に載せたらしい」
 目をつぶったままエアリアが載せるところまでは見なかったがと話した。
「運んでいたのはロジオン副所長という男です。ドアァアルギアという船にはファランツェリが乗ってくると言っていました」
 リィイヴが小箱を閉じた。
「ドアァァルギア…まだ建造中だとばかり…」
 ドアァァルギアは、『浮島《フロティイル》』と呼ばれる、大型のユラニオゥムマリィンで、モゥビィルやプテロソプタを運ぶことができる。浮上して航行すれば、空母《ポォルテゥウル》にもなるのだ。現在稼動しているのは、極北の海で啓蒙ミッション中のトレイルへの補給を行っているアーリエギアだけのはずだった。すでに弐号基ドアァァルギアも可動していたとは。
「ファランツェリがその船に乗る意味はなんだ」
 イージェンが尋ねたが、リィイヴにもわからなかった。アートランが分かる範囲でと話した。
「ファランツェリは南方大島のビィイクル打上ミッションに参加するはずだったけど、パリスが失脚したから、エヴァンスに追い出されたんだ」
 キャピタァルに帰れと言われていたけどと言うと、リィイヴがもしかしたらと目を険しくした。
「ロジオンというのは、パリスの二番目の子どもで、ユラニオゥム精製棟の副所長だったはず。それがミッシレェを搭載したドアァァルギアにファランツェリと乗り込むってことになると…」
 イージェンが仮面の顎を指で触れた。
「パリスが罷免されたと言っていたな」
 レヴァードがカトルから聞いたパリス罷免の経緯を話した。リィイヴが額を手のひらで抑えた。
「もう一基のフロティイル・アーリエギアの副艦長と機関士長もパリスの子どもなんだ」
「そのふたつの大型マリィンはパリスの子どもたちに抑えられていると見るべきだな」
 イージェンが失脚後のパリスの動きが心配だとため息をついた。
「エヴァンスたちはきちんと抑えているんだろうか、パリスのことを」
 レヴァードがどうだろうかと首を捻った。
「罷免されたとしても、違反者ではないし、軟禁する理由もない。キャピタァルの外に出ることはできないだろうが、中にいる限りは自由だろうな」
 アートランがリィイヴの肩に手を置いた。
「ヴァドってやつもパリスの子どもだろ?どんなやつだ」
 リィイヴがはっと振り返るとアートランが真剣な目で見つめていた。


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