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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第187回   イージェンとヴラド・ヴ・ラシス《商人組合》(4)
 光が引くと、石の箱は跡形もなく粉々に吹っ飛んでいた。しかも、地面も少し削られたようで、浅い穴が開いていた。
「…うわあっ…」
 ずっと肩を掴んでいたアルトゥールが眼を見張って驚いた。
『確かにたいした威力だ』
 ジェトゥが感心してみせた。耳覆いからパミナのくすくす笑う声がした。
「とうさん、これ、やってみたい」
 アルトゥールが好奇心から、ジェトゥに言った。ジェトゥがパミナに言ってみた。
『息子が撃ってみたいというのだが』
 承知はしないだろうと思っていたら、パミナはあっさり承知した。
『いいですわ、こちらにいらっしゃい』
 手招きした。アルトゥールがパミナがどいた席に座った。
『標的、左の木にしましょう』
 パミナが足元の管を動かして、砲塔を左に向けた。モニタァにあまり高くないが、木が見えてきた。ジェトゥも立ち上がってすぐ側で覗き込んだ。管の釦はよく見るとふたつあり、縦に並んでいる。
『標的が赤い円の中心になるように、この管で調節してください』
 膝元の管を示した。中心に入ったら、上の釦を押して固定、下の釦を押して発射するのだと説明した。
 アルトゥールが足元の管を動かした。何度か動かして、木を円の中心に捉えた。釦を押した。しかし、何も起こらない。
『それは発射釦ですわ』
 下の釦を押してしまったのだ。上の釦で固定しないと発射できないようになっているらしい。アルトゥールが口を尖らせた。
「釦が小さいから」
文句を言い、上の釦を押し直した。赤い円が点滅。下の釦を押すと、画面の上の方から白い光が飛んでいった。画面がパアァッと白く輝き、大きな爆発の音がした。
木が跡形もなくなっていた。
「…すごいな」
 アルトゥールがぽかんと口を開けて見入っていた。 
 元の場所に戻ってから、リジットモゥビィルを降り、屋根なしのモゥビィルに乗って、建物に戻った。
「今夜はこちらに泊まってください、夕食も用意しますから」
 パミナが後で部屋に案内するよう、灰色つなぎのひとりに命じた。階段を登りかけたパミナを呼び止めた。
「ダリアト殿の様子、教えてくれ」
 パミナがうなずき、後でと小さく手を振った。
 案内された部屋には、ベッドがひとつだった。
マシンナートが、続きの部屋のようなところに連れて行き、用を足す白い椅子や湯のでる管の説明をした。
 椅子に座り、テーブルの上に置かれた水差しから杯に水を入れた。少し含んでみた。無味。特に毒や薬の類は感じられない。再び杯に水を満たして、アルトゥールに差し出した。
「これは大丈夫だから飲め」
 アルトゥールが受け取り、飲んだ。
「あんな武器だったら、あっという間に全滅だな」
 アルトゥールが少し真剣な顔つきになった。
ウティレ=ユハニの国境守備隊は『無敵の牙』部隊の流れを汲む勇猛な軍隊だった。まさに向かうところ敵なしで、戦術的な意味で後退することはあっても、敗退したことはなかった。
「一の大陸でのことだが、南方大島軍の百数隻の軍船がマシンナートの武器によって半時で壊滅したと聞いた。『無敵の牙』部隊も同じ目に会うだろうな」
 ジェトゥが立ち上がって窓に寄った。外は、夕方になったためか、マシンナートたちの行き来が激しくなっていた。モゥビィルも多数動いていた。
「そっか、あんまりあっさり決まっちまうのはつまんないけどなぁ…」
 ジェトゥが首を振った。
「早く終われば少ない損で済むのだから、喜ばなくてはな」
 この事態を大魔導師イージェンが知ったら、ヴラド・ヴ・ラシスも壊滅させようと思うかもしれない。しかし、マシンナートたちのバレーを消滅させるようなわけにはいかない。イージェンは人買いを生業としていたから、ヴラド・ヴ・ラシスの本性がわかっている口ぶりだった。
 ヴラド・ヴ・ラシスはヒトの組織なのだ。それも五大陸全てに広がっている。本拠を潰してもそれで消えるわけではない。どのような形でも生き残っていくだろう。
 せっかくなので、ユニットという部屋の湯を使ってみた。湯が滝のように流れ落ちてくる。たいしたものだが、動力源がもしなくなったら、一滴も出ないのだ。使えない状態になったときどうするかだなと思った。アルトゥールにも使わせた。湯の滝を面白がって、ずっと出しているので、さすがにたしなめた。
 しばらくして、外はすっかり暗くなった。扉が叩かれ、マシンナートが入ってきた。出入り口側のなにかに触れた。天井付近がぱっと光り、明るくなった。アルトゥールがはっと天井を見た。
「夕食を一緒にとパミナ教授がお呼びです」
 ジェトゥがぼおっと天井を見上げているアルトゥールの頭を叩いた。
「いくぞ」
 アルトゥールがあわてて後を追った。
「待ってくれよ」
 案内されたところは、三階の階段を登ったすぐの部屋だった。五人くらいで座れるテーブルがあり、パミナが座っていた。テーブルの上には皿や硝子の杯が乗っていた。
「お招きありがとうございます」
 ジェトゥがうやうやしくお辞儀した。パミナがくすっと笑った。
「どうも、ご丁寧に。どうぞ、おかけください」
 ふたりが座ると、硝子の杯に何かが注がれた。
「乾杯しましょう、勝利の前祝ということで」
 パミナが杯を持った。ジェトゥが続くとアルトゥールも杯を掴んだ。
「乾杯」
 パミナが杯をちょっと掲げてから口を付けた。ジェトゥも目の高さまで上げて、口に含み、アルトゥールも形だけ続いた。
 ジェトゥが少し顔をしかめたが、フォークで目の前の皿から、揚げた野菜のようなものを食べた。
「マシンナートの食べ物は初めてだが、しょっぱいな」
 味の違和感をそう表現した。パミナが首をかしげた。
「そう?塩分は控えめで調理してますのよ」
 ジェトゥがダリアトの様子を尋ねた。
「悪性のヘパタイティスですね、肝硬変というもので、投薬治療では治らないくらいかなり進行しています。でも、ここでは設備もないので手術はできないし」
 本格的な治療は、バレーでないとできないという。
「せめてウティレ=ユハニが滅びるところを見るまで寿命を延ばしてやってくれ、ダリアト殿としてはそれで満足だろう」
 ジェトゥがちらっとパミナを見た。パミナは裾の長い白衣を脱いでいて、身体の線がわかる丈の短い服を着ていた。かなり豊かな身体つきだ。
 アルトゥールも腹が空いていたので、ジェトゥが手をつけた野菜を食べた。ジェトゥが言うほどしょっぱくはないが、やわらかすぎる。肉も肉らしい感じがしない。歯の弱くなった年寄りだったら喜ぶかなと思った。さきほど口をつけたふりをした酒も飲んでみた。さっぱりしているが薄い。
ジェトゥはひととおり口だけつけていた。
 パミナがふたりをしげしげと見た。急にジェトゥに話しかけた。
「ウティレ=ユハニの国境守備隊の隊長が変わったようです、えっと…」
 パミナがテーブルに置いていた小箱を開いて、何か見た。
「前の隊長の副官だったカッツエルが隊長になったそうです」
 だからどうということはないですがとまたおかしそうに笑った。アルトゥールがパミナをちらっと見てからスゥウプを飲んだ。
「戦いはいつ始めるんだ」
 ジェトゥが尋ねると、パミナが小箱に指を滑らした。
「予定では三日後の〇九〇〇にミッション開始。プテロソプタという空を飛ぶ乗り物も何機か出撃します。始まれば五、六時間で終わるでしょう」
 夜明けとともに河を渡るという。守備隊の本営がある場所は、もっと下流で、そのあたりはかなり水深がある。
 渡ってからふたときほどで守備隊の本営に到着するという。その間に見つかったとしても、援軍はもちろん、魔導師も到着できないだろう。
「ジェトゥさんは、学院や魔導師についてお詳しいようだけど」
 少し酔ったようで、目元が赤くなっている。
「ウティレ=ユハニの宮廷に潜り込んでいたから、多少は知っている」
 パミナがとろんとした眼でジェトゥを見た。
「わたくしにもう少し詳しく教えていただけますかしら」
 部屋を改めてと小さくつぶやいた。
 一度アルトゥールと部屋に戻ったジェトゥが、先に休むよう言った。
「とうさん、あのマシンナートの女と寝るのか?」
 アルトゥールが少し心配そうにジェトゥを上目使いで見た。
「なりゆきしだいだな、それともおまえが寝るか」
 アルトゥールが首を振った。
「好みじゃない」
 ジェトゥが苦笑した。心配するなと言って出て行った。
 外で待っていたマシンナートが連れていったのは、三階の一番奥の部屋だった。パミナの部屋だろう。中には長椅子と低いテーブル、隅にモニタァと板が置いてある机と椅子。窓際にベッドという簡単な造りだった。パミナが長椅子にジェトゥを座らせ、すぐ隣に座った。
「もう少し飲みましょう」
 テーブルに置かれた硝子の杯ふたつに酒を注いだ。ひとつをジェトゥに持たせて、杯をかち合わせた。パミナが大魔導師のことと、この大陸の魔導師のことを話してくれと言った。
「会頭から学院長の名前くらいは教えてもらったのだけど、魔力の等級とかはわからないようでしたので」
 ヴラド・ヴ・ラシスとしては特級魔導師の名前や何級くらいは把握しているはずなので、教える気がないのだろう。イリン=エルンの学院長の名を伝えているのか。それにしては、自分を警戒しているようではないので、副学院長の名でも言っていたのかもしれない。出て来る前に聞いておけばよかった。
「大魔導師が、この第二大陸のマシンナートの施設を壊したんです、実は、すでに亡くなったという話だったのでまだ生きていたのかと驚いてしまって」
 パミナが困りきった顔をした。
「この大陸の大魔導師はもう五十年前に亡くなったが、一の大陸から大魔導師が来たんだ。その施設は『瘴気』を出したことがあるものらしいので、始末したのだろう。もう帰ったようだから、気にしなくてもよいのでは」
 イージェンは『瘴気』の調査に来ると言っていた。『瘴気』の元を作っている施設を始末したのだろう。パミナの言う大魔導師というのは、おそらくヴィルトのことのようだが、マシンナートにとっては、大魔導師が誰であろうとどうでもいいことだろう。
「あの鋼鉄の馬車、リジッドモゥビィルだったか、あのアウムズに対抗できる魔力がある魔導師は、この大陸では三人」
 ほんとうは自分を入れて四人だ。
「まあ、そんなものなんですの?」
 あまりの少なさにパミナが驚いて、身体をくねらせるようにしてジェトゥに近寄った。


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