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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第176回   イージェンと極南島《ウェルイル》(3)
 そろそろ会議場に向かわなければと保育棟を出てエレベェエタァに乗った。途中の階でバレーの議長のディゾンとジーントスが乗ってきた。
「エヴァンス大教授、お久しぶりですね」
 第三大陸の議長ジーントスが挨拶した。ディゾンはそっぽを向いていた。
「ジーントス議長のところの、ヴラド・ヴ・ラシスからの情報収集、次はいつなんだね」
 ジーントスが顎を引いた。
「半年に一度ブワァアトセンダァルで連絡してきたときに聞き取りしてますが、次は三ヶ月後なんですよ。こちらからは近づけないので不便なのですけど」
 ジーントスがちらっとディゾンを見た。
「第二大陸のほうが情報が得られるのでは。パミナ教授がヴラド・ヴ・ラシスの指導者へ啓蒙ミッションを行っていますから」
 エヴァンスがディゾンを睨んだ。
「第二大陸での啓蒙ミッションが継続されていたとは知らなかった、てっきりアーレのようにミッション変更になったのかと思った」
「まあ…パミナ教授があと半年といっているので」
 ディゾンはあまり話したくない様子だった。エヴァンスも意図がなければ、口もききたくないし、一緒の場にいたくなかった。
会議場の階に着いた。バレーの議長たちの集合する部屋も同じ階だった。
 ふたりと別れて会議場に向かった。扉脇の硝子の小窓に小箱をかざすとピッと音がして扉が開いた。
円卓上の机にモニタァが置いてある。そのひとつに座った。横にアンディランがいた。
「おはよう」
 エヴァンスが挨拶すると、アンディランが笑い返した。モニタァに白い四角が現れた。アンディランからだった。
『タニアからいい知らせだ、クロゥセィとキャセルがこちらについたぞ』
 昨日もうひとりの友人タニアが連れてきたふたりの評議会議員たちだ。最高評議会議員は議長入れて十五人である。五人ではまだ半数には満たないが、それでも、クロゥセィはパリス議長の独断を嫌う一派でも影響力のある大教授だ。
『慎重にいこう』
 エヴァンスが返答した。
 パリス議長が入ってきた。全員がそろい、最高評議会が開会した。パリスが開会を宣言した。
「これより臨時最高評議会を開会する。
 議題壱号、第一大陸セクル=テュルフ・アーレのレェベェル7発動と結果の報告、
 弐号、素子牽制のための『ユラニオゥム弾道ミッシレェ』発射決議、
 参号、エトルヴェール島ビィイクル製造ミッションから発射ミッションへの移行決議、以上」
 発言は手元のボォウドでパリスに伝え、許可を得てからすることになっている。
「壱号、紀元三〇二五年四月三十日、第一大陸セクル=テュルフ・アーレに、アルティメット・ヴィルトが、捕獲したイメイン素子イージェン救出のため侵入してきた。かつて『パリス誓約』で持たざると約束したミッシレェを使用したことにより、アルティメット・ヴィルトがエンテロデリィイト病理コォウドをベェエスに流した。アルティメットがバレー消滅を実行することは間違いないので、その前にレェベェル7を発動し、炉心溶融を誘発してアルティメットを殺害した。核フロア離脱により、インクワイァの被害は十三人と最小限に留まった」
 うそつきめとエヴァンスが内心怒りを覚えていた。アルティメットは死んではいない。ユラニオゥム精製棟消滅は、ディゾンから聞いているはずだ。
 議員のひとりが質問をした。
『アルティメット死亡の確認はなされたのか』
 パリス議長の回答。
「死亡の確認については、経済機構《ヴラド・ヴ・ラシス》からの情報で確認する予定だ」
 エヴァンスが質問した。
『第三大陸での聞き取りは、三ヶ月先になるのでは?その間、静観かね』
 パリス議長の声は不愉快さがにじみ出ていた。
「もしアルティメットが死亡していなければ、他の大陸のバレーも消滅させるはずなので、各バレーにはレェベェル6での警告を発している。今のところ、アルティメット出現の報告はない」
 会議の様子は、バレーの議長たちの部屋でも見られるようになっていた。円卓ではなく、横に並んだ机が十ほどある部屋で、ジーントスが隣のディゾンの顔色がよくないのに気づいた。
「ディゾン、どうした、具合でも悪いのか」
 ディゾンが首を振ったが、どう見てもよくないようだった。
 クロゥセィが提案した。
『第二大陸で、パミナ教授が経済機構《ヴラド・ヴ・ラシス》の指導者と接触があると聞いているので、そちらに尋ねれば、もっと早くアルティメット死亡の確認ができるのではないか』
 パリス議長の回答。
「その提案への回答の前に、パミナ教授から、ミッション計画許可願いが届いている。全員にファイルを転送しよう」
 各議員のタァウミナルにファイルが転送されてきた。展開して内容に眼を通した。
《ヴラド・ヴ・ラシス》の本拠がウティレ=ユハニからハバーンルークに移動、現在、《ヴラド・ヴ・ラシス》の指導者アギス・ラドスと接触、啓蒙ミッションを行っている、アギス・ラドスは非常にテクノロジイを利用することに積極的、《ヴラド・ヴ・ラシス》を通じて、ハバーンルークとウティレ=ユハニの国境を脅かしている破壊集団《匪賊》にアウムズを提供し、ウティレ=ユハニを攻撃するミッション計画が書かれていた。
 さらに、アウムズ装備のリジィドモゥビィル三十台とオゥトマチク二百丁、複式機関砲十台、記録担当のプテロソプタ三台、戦闘プテロソプタ二台を投入、ウティレ=ユハニの国境守備隊と戦闘予定とあった。国都襲撃の計画も追記されている。
「パミナ教授、ユワンと同い年だったか、なかなかやるな」
 エヴァンスがつぶやいた。
 パリス議長が続けた。
「パミナ教授のミッションには、シリィの情報収集も入っている。アルティメットの生存についても確認できるだろう。パミナ教授の啓蒙ミッションはあと半年の予定だったが、今回のアウムズ投入が成功すれば、継続の予定だ」
 パミナ教授の計画書は許可するという。それについては異議はでなかった。
どうやら、アーレのユワンのときのように、アウムズを投入できるような啓蒙ミッションならば、非『ユラニオゥム』アウムズでもよいからやらせようとしているようだった。
「微妙になってきたな、非『ユラニオゥム』アウムズで進めるならば、パリスへの批判は緩む」
 だが、アルティメットはアウムズの使用を否定するはず。
…シリィの生活をよくしていく私のミッションを受け入れる国があれば、逆に学院を追い出すこともできるはず。カーティアでは今一歩のところで失敗したが、私ならば成功させられる。
 自然を守りつつ、生活の向上が望めれば、学院がテクノロジイを否定する意味がなくなるはず。逆にシリィたちは歓迎するだろう。エトルヴェール島の人々のように。シリィたちが受け入れているのに、アルティメットも消滅させることなどできないはずだ。
逆にそんなことをすれば、シリィたちはアルティメットや学院を否定するようになる。一国でもそのようになれば、他国でも揉めていくに違いない。そのうち、アルティメットは寿命が尽きて死ぬだろう。残った素子たちには充分対抗できる。
 いずれにしても、パリスに『ユラニオゥム弾道ミッシレェ』の発射権限を与えてはならない。それに、パリスとディゾンは許せない存在だ。
「あれは絶対にパリスの仕業だ」
 自尊心が強く傲慢なパリスは、六つ年下で愛らしい姿と素直な性格でみんなから愛され、マシンナートにおける『最高頭脳《セルヴォウ・デェ・スュプレェエム》』と賞賛されたジェナイダに嫉妬したのだ。テェエルでの事故ならばれないと思ったのだろう。しかも、その後、議長だったザンディズが倒れたのを幸いに生命維持装置の異常を起こさせて、殺したに違いない。
 ジェナイダが産まれる前、エヴァンスはパリスをとても可愛がっていた。パリスも年の離れた兄を慕っていた。だからこそ、自分よりもジェナイダやザンディズを選んだエヴァンスを一層憎むようになったのだろう。
そして、エヴァンスもまた、妹であるのに自分を苦しめるパリスが許せなかった。
 副議長のクィスティンが発言した。
『では、アルティメットの死亡確認は、パミナ教授からの報告待ちということで壱号議題終了ですね』
 キャセルが発言した。
『報告としては受領するが、今後レベェル7の発動については慎重にしてほしいがいかがか』
 パリス議長の返答。
「レベェル7の発動は常に緊急事態に対しての対処になる。対アルティメット以外にはありえないものだ」
 エヴァンスの質問。
『今回アーレを訪問したパリス議長が現場に遭遇し、アーレの評議会の承認もなく、発動したということが問題なのでは』
 クィスティン副議長がパリスのタァウミナルに個人通信を送った。
『どうします、アーレのニーヴァンに発言させますか』
 パリスが少し考えてからしなくていいと返信し、全員に向けて回答した。
「エヴァンス大教授の今の質問だが、緊急性を最優先しなければならない事態にいちいち評議会の承認を取っていられない。愚問だな」
 エヴァンスもそんなことはわかっている。ただ、パリスの独断をこのまま許すわけにはいかないのだ。キャセルが再度発言した。
『各バレーにはレェベェル6を発動しているようだが、この場で、再考を提議する、わたしはレェベェル5でよいと思うが』
 レェベェル6は、インクワイァ全員が中央塔核フロアで待機するというものだ。避難を前提にしており、当然研究作業は停止する。あまり長期にわたるといろいろと支障が出てくる。
 レェベェル5は、基本的にインクワイァの中央塔以外での研究作業を禁止するものだが、緩やかなので、ワァカァへの指示や短時間の別棟の研究棟への訪問は許される。したがって、現在作業中のものを停止する必要がないのだ。
 別の議員が発言した。
『今回の議会が終了すれば、アルティメットも死亡したわけだし、緊急事態解除できるはず。それまでの間のことだから、ここで再考するまでもないのでは』
 パリスを擁護しての発言だが、パリスが内心余計なことをと舌打ちした。


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