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作品名:異能の素子 作者:本間 範子

第141回   イージェンと《瘴気》の地底抗(4)
 リィイヴが合図した。リィイヴの操作で、パッパッと画面が変わっていく。その表示される画面の表をエアリアが瞬間記憶していく。画面の右隅に小さな白い四角が出た。
『タァウミナル番号八九五〇七、レェィベルディス・アリスタ・フェロゥ、ドゥーレ精製棟への訪問許可番号を報告せよ』
 もう少し時間がほしい。
『フェロゥ・レェィベルディスのクォリフィケイションにて使用中』
 白い四角に返信した。その間にも、表の表示は変わっている。
『当施設への訪問許可番号を報告せよ』
『許可番号《キャトル・リアァン・オンズ・ヌフ・ミル・ドゥーケ》』
 白い四角がチカチカとした。
『現在許可番号照合中』
 やはり五ミニツももたない。リィイヴが別の『窓』を出した。
「もうすぐ接続切られる。これも覚えて!」
 エアリアがこくっと顎を引いた。
『タァウミナル番号八九五〇七、アリスタ・フェロゥ、不正アクセス』
 ブチッと音がして、モニタァが切れた。
「おい!おまえたち、だれだ!?」
 後ろからいきなり声がして、電撃を発する二股棒を突き出してきた。椅子から立ち上がっていたリィイヴが避けようとして、床に尻を付いた。
 エアリアが手のひらから風を噴き出し、五人いたマシンナートをはじき飛ばした。別のほうからも何人もやってくる。オゥトマチクを持っているものもいた。エアリアがリィイヴを抱えて浮かび上がった。
「わぁっ!こ、こいつら、宙に!?」
 惑乱したひとりがオゥトマチクを発砲した。回りも連れられて闇雲に撃ってきた。エアリアが火花とその大きな音に驚き、魔力で包むのが遅れた。鉄の玉がリィイヴの足に当たった。
「あぁあっ!」
 エアリアが魔力のドームで包み込んだ。鉄の玉がパシューンと当たってはじきとんだ。そのまま筒の反対側に向かった。
「大丈夫ですか!」
 エアリアがリィイヴを床に寝かせた。足から血がたくさん出ている。
「うっあっ…あ、あまり大丈夫じゃない…痛い…よっ」
 身体が震え、涙が出て来る。エアリアがズボンを裾から裂いた。太ももの傷口に手を当てようとした。
「待って…玉を…取らないと」
 そのまま傷口を塞ぐと身体の中に玉が残ってしまう。
「後ろ!」
 リィイヴが叫んだ。
 後ろから男がオゥトマチクを撃とうとしていた。エアリアはヒトならぬ速度で男の側に現われ、右手に輝く杖を出し、男の胸を貫いた。
「うわぁぁっ!」
 男の胸がボオッと焼け焦げ、後ろに倒れた。何人か駆けつけてきたものたちを次々に刺し貫いていく。あっという間に倒してしまった。
血が抜けていき、くらくらとしてくる。かすむ目でエアリアが戦う姿を見た。
…すごいな、やっぱり…
 エアリアは、リィイヴを抱き上げ、飛び上がった。壁に沿って付いている通路に降りる。上からイージェンを探したが、見当たらない。すでに警報が鳴り響いていた。
『緊急警報、侵入者二名、警備係第三、第五チィイム、第二区域に急行せよ』
 抑揚のない女の声が聞こえてきた。
「上だぞ!」
 下から声がした。大勢集まってきた。ふたりに向かってオゥトマチクを撃ち出した。
急に灯りがチカチカとしてきた。マシンナートたちが撃つのをやめて、周囲を見回した。壁のモニタァが黒い画面になり、ものすごい勢いで上から下に白い文字列が流れていき、表示されるとすぐに消えていった。最後に全てのモニタァに灰色の仮面がボオッと浮き上がってきた。イージェンの声が聞こえてきた。
『…シンナートに告ぐ…これからこの精製所を消滅させる。五ミニツやる、逃げたければ逃げろ』
 天井の灯りが消え、警報も消えた。ゴオゴオッと音を立てて動いていた精製の筒の音も止まった。
「うわぁぁぁぁぁっ!」「キャアーァッ!」
 あちこちから悲鳴が上がった。暗闇だが、足元になにか緑色に光る標しがあって、逃げる道を示しているようだった。エアリアが裂いたズボンでリィイヴの太ももの付け根を縛った。
「師匠が病理コォオドを流しました。早く出ましょう」
 手当ては外に出てからしますとリィイヴを抱えた。
「おい、おまえたち!」
 急に頭の上から声がした。すぐ上の通路から男がオゥトマチクを向けてきた。通路の床は鋼鉄のすのこ状で、その隙間から銃口を向けていた。エアリアを見て目を険しくした。
「おまえがアリスタなのか?」
 エアリアが右手に光の杖を出した。
「な、なんだそれは…」
 エアリアが下から光の杖を突き上げた。
「うわぁぁっ!」
 光が男の額を貫き、ガタンと音を立てて、倒れた。胸から小箱がこぼれた。リィイヴがそれを見つけて、苦しい息の下から言った。
「エアリア…あの箱…」
 エアリアが上の段に移り、箱を拾った。奥の方が白く光りだした。白く光ったところが霧状になっていく。
「あれが…」
 エアリアががくがくと顎を震わせ、魔力のドームで包み、飛んだ。
霧状の光の粒がすさまじい勢いで奥の中心部分に向かって吸い込まれていく。足元を軌条通路に向かってマシンナートたちが逃げていく。精製棟の作業員はおよそ百名くらいはいるはずだ。軌条通路への出入り口は狭い。ヒトが錯乱状態で集中すれば、どうなるか。案の定、われ先に出ようとしてヒトが倒れている上からどんどん重なってしまい、扉の前で大勢が折り重なっていた。
 エアリアがその出入り口に向かって、光の杖から竜巻を噴き出した。マシンナートたちの身体が木の葉のように舞い上がって、吹き飛ばされていく。一部は出入り口から外に吐き出された。空いた空間から軌条通路に飛び出した。同時に背後が霧の粒になり、奥に吸い込まれていく。エアリアが魔力のドームを強くして、速度を上げた。
「あそこから出れば!」
 侵入したところから出ればと飛び続けた。霧がすべて吸い込まれたらしく、後ろが黒い闇となった。
 無音であった地底抗がゴゴオーッと音がしてきた。地震のように揺れ動いている。闇の奥から真っ赤な光が溢れてきた。
 侵入した穴を見つけた。穴に入ったとたん、軌条通路は真っ赤な光に満たされた。
「溶岩…」
 後ろを振り返ったエアリアが青くなった。侵入した穴にも溶岩が溢れてきた。
「師匠、打ち合わせにないです!」


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