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作品名: 作者:飛鳥

第1回   再会、そしてはじまり。
「すべては、ここからだと」
言葉少なめに、つぶやく一人の女性がいた。
彼女は、悲しそうに海のむこうを見ていた。
その姿を、不思議そうに見つめる少年がいた。
彼女は、その少年に気付かず、そうつぶやくと、海を背にバス停まで歩き始めた。
少年は、その後ろ姿に、何かを感じていた。

これが、二人の再会の始まりだった。

彼女の名前は、ない。
なぜなら、彼女自身が、わからないのだ。
自分のことをすべて。
彼女の記憶は、愛する人と来たこの、海だけだった。

まわりに、「由紀子」と、名前をいわれつづけても、理解できなかった。納得できないでいた。
彼女の記憶は、この海でとまり、自分が何をしていたか、両親さえ、わからないでいた。

彼女は、バスに乗り込み、そして、また海を見つめていた。
涙をこらえるように、自分の薬指をみつめ、さすっていた。
そこには、日焼けした指輪のあとがあった。

少年は、最後まで、その女性を見送っていた。
少年は、海にこういった。

「僕の、とおさん。母さん。どこにいるの?」

後ろから、かすかに聞こえる声がした。
少年を呼ぶ声、後ろをふりかえると、老婆がいた。

その老婆は、少年を優しく包み、こういった。

「おうちへ帰ろう」

少年は、泣いた。
何も言えずに泣いていた。そして、声が大きくなるのが自分でもわかっていた。

そんな少年を老婆は何も言わずに、やさしく包んでいた。

夕日が、海に隠れはじめ、あたりは、すこし冷え込んでいった。
夜が、そこまで来ていた。


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