「ファンタジーだよ!この世のファンタジーがまた一つ発見されたんだ!」
部室に入ってくるなり部長の大西は興奮気味に話を切り出した。
はぁ……やれやれまたかよ。
「ファンタジーなのは部長の頭だろ……」
「亮、知っているか?最近巷で話題になっている都市伝説の話をさ」
わざとらしく俺が疲れきった声を出したことを部長は全く気がついた様子が無い。それどころか、ますます話をヒートアップさせオーバージェスチャーで語りまくるのだ。他の部員の連中も、ため息混じりに呆れた表情を見せる。
ちなみに都市伝説とは、その町に語り継がれている不可思議な現象のことだ。俺が住んでいるこの町、夕凪市にも様々な都市伝説がある。
老人の顔を持つ気味の悪い犬、人面犬。そう都市伝説。
「私って綺麗?」と聞いてくる口が耳元まで裂けている口裂け女。そう都市伝説。
電車にひかれても、上半身だけで高速移動したと言われる通称「テケテケ」。そう都市伝説。
大西部長はそう言った都市伝説やオカルト現象を追求し探求するオカルト研究会、通称オカケンの部長である。そしてこの俺は一応そこの部員と言う事になる。
本来、部活動なんてかったるいことはしない俺だが、この北斗商業学校には生徒は必ずどこかの部活に所属しなくてはいけないと言う、真に迷惑極まりない校則があるのだ。体を動かし、上下関係の厳しい体育会系の部活なんてまっぴらごめんだった俺は、一番マイナーで幽霊部員でも許されそうな文系の部活『オカルト研究会』を選んだ。だが、それは大きな間違いだった。まさか、こんなに大変な部だったとは……。
「どうせ、またくだらないガセネタでも掴んで来たんでしょ?」
副部長の静原瑞穂が机に頬を預けながら眠そうに言う。
「ち、違う!今度こそ本当の話なんだよ!間違いない!」
部長の持ってくる話は毎回ろくなものが無い。そのろくでもないモノの解明のために、毎度毎度借り出されている俺たち部員の苦労をこの男は少しでも理解しているのだろうか?
「この間もそう言ってましたよね。なんでしたっけ?パグにそっくりのおじさんを捕まえて『人面犬だ!』でしたっけ?あれは人面犬じゃなくて犬面の人だと思いますよ」
「うっ……」
部員の高橋洋一がメガネを光らせながら厳しい視線を部長に向ける。
「あとは、口裂け女と言って、痔に悩んでいるおばさんを捕まえていたよな。あれは口裂けじゃなくて尻裂けだぜ、ギャハハ!あれは傑作だったよな!」
「うっ……」
部員の天草五郎が部長を指差しながら大声で笑う。
「それとも、あの話ですか?『テケテケ発見!』と言ってヨガが趣味のおじいさんを捕まえた……。確かに上半身だけで移動していたけど、下半身はちゃんとありましたよね……」
水晶に息を吹きかけ大事そうに磨いていた、同じく部員の今野美香が呟く。
部員全員から指摘を受けて、声も出ない部長。いつもなら、ここで部長が「みんながいぢめるよ〜!」とか言って、泣きながら出て行き部活終了となるのだが今日は違った。不敵な笑みを見せる部長は引き下がろうとしない。なんだ?この自信有り気な表情は!?
「ふっふっふ。それはこいつを見てから言いたまえ!」
そう言って部長がカバンから取り出したのは一本のビデオテープ。古臭く、ラベルも貼っていないそのビデオテープは、何か異様な禍々しさをかもし出していた。
「部長、これは……?」
「呪いのビデオ」
静原の質問に自信満々に答える大西部長。その答えを聞いた俺たちは一斉にザザッとビデオから離れた。
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