扉から部屋に顔を出し覗き込む。その部屋は明らかに今までの作りとは異なっとった。まず部屋の大きさが段違いや。縦幅横幅共に少なく見積もっても五十メートルはある。この中で競技会でもできそうなぐらいや。壁もうねうねと、まるで水の上に絵の具を垂らした様な怪しい動きをおり、異質な空間に迷い込んでしまったような錯覚を覚える。見ているだけで気分が悪くなってくるわ。
一番奥には生前のミラノを奉る巨大な銅像と台座が見えた。ワイはリュックから双眼鏡を取り出し銅像を見る。六本の手にそれぞれ武器を持ち、笑い、怒り、冷徹の三つの顔を持つミラノの銅像は禍々しい邪神のような姿をしている。それにしても、よっぽど恐ろしい女やったんだろうな、見ているだけで製作者の気持ちが伝わってくるようや。
台座目指して歩き始める。多分あそこに降魔の杖があるハズや。
「バッツ、早くするニャ〜」
「おい、あんまり先に行くと危ないで。どんなトラップが仕掛けてあるか分からへんからな」
先走るペケとは反対にワイは慎重に台座へと近づく。もちろん床のトラップを警戒して『浮遊』も全員にかけてあるで。このまますんなりと降魔の杖が手に入るワケはあらへんからな。どうせトラップかモンスターが待ち構えているハズや。だが、ここまで来て物怖じするワケもない。ワイの崇高なる目的のためには、降魔の杖が絶対に必要なんや。目指せ、酒池肉林!
「まちな坊や。それ以上近づくんじゃない、怪我どころじゃすまなくなるよ」
部屋の中央まで歩いて来たとき、トライに肩を捕まれた。
「大丈夫やって。ワイに任せとけば何も怖いことなんてあらへんって」
ワイはトライの手を払いのけた。それでもなおしつこくトライは肩を掴んでくる。
「ここはあんたみたいな坊やが来てもいい場所じゃないんだよ!あんたの連れは私が探し出してあげるからさ、大人しく言うことを聞いて家に帰りな!」
「だから、ワイはこう見えても千年以上生きとる大魔道士……!」
言いかけたところで、ワイは後ろの気配に気がついて振り向いた。
「何を慌てているニャ、バッツ。なんのトラップも仕掛けられて無いニャ。こんな銅像もコケ脅しニャ!」
すでに台座に到着していたペケがミラノ像の足にガブリと噛み付いた。その時だった。
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