「出来たよー」 そう言って、私はこたつの上に鍋を置いた。 私の部屋で料理。二人だけの食事。なんだか新婚さんみたいで嬉しい。 「おお。すげえな、沙織」 彼はいつもの如くそう言って、嬉しそうに鍋を見つめる。夜食に近いので、鍋の他にはサラダと残り物の惣菜のみ。それでも彼は、嬉しそうに合図を待っている。 私の彼氏の鷹緒さんは、まったく料理が出来ない。いや、きっと料理をする気がないんだろう。 私は料理が出来るほうじゃないけど、一人暮らしだし、なんとなくの自炊は出来る……そんな程度。 「めしあがれ」 そんな私の言葉を合図に、彼は料理に手をつけた。 「うん、うまい」 世の男性はその一言さえ言わない人がいるらしいけど、私の彼はちゃんと言ってくれる。そんな彼に、私は嬉しい反面、苦笑した。 「なに、その顔」 苦笑する私に向かって彼が怪訝な顔をするので、私は首を振る。 「ううん。だって鷹緒さん、何作っても喜んでくれるから」 「……嫌なの?」 きょとんとする彼に私は尚も苦笑する。もう、なんて可愛い人なんだろう。 「だからそういうんじゃなくて、私は料理が苦手だから助かるし嬉しいけど、なんか張り合いなくすっていうか……」 「そういうもん? 俺一人でいたら、皿に移すことすらしないしな……こんなに綺麗に並べられたら、そりゃすごいとか思わない?」 「あのね……今日は湯豆腐なんですけど!」 料理と呼ぶにはあまりにも恥ずかしくて、私は目をつぶってそう言った。それでも鷹緒さんは、不思議そうに首を傾げてる。 「立派な料理だろ。べつにおまえが買ってきたものただ並べたとしても、俺は感謝するよ」 なんだかこれ以上言うのが馬鹿らしく思えて、私は笑ってしまった。 「もう。本当に料理しないんだから……張り合いなくして、私まで料理しなくなっても知らないよ」 「自分が料理やらないから、おまえに強要することでもないんじゃん? でもそれは残念だな」 最後の一言がずるいくらい愛しく思う。これからもっと料理の勉強をして、たくさん作って食べさせてあげたい。そしてもっと喜ばせたい。 「嘘だよ。これからも作るもん」 「……これからは喜ばないようにするよ」 もう、わかってないなあ……むっとした私の真意がわかっているのか、鷹緒さんは優しく微笑んでる。もうすべて許してしまいたくなった。 「喜んではほしいんだけど……」 「じゃあまた作って。俺は本音しか言わないよ」 その一言が嬉しい。 「じゃあまずくても、お手柔らかに……」 「ハハハ。うん……いつもありがとう」 彼のために、明日も……。
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