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作品名:FLASH 作者:KANASHI

第8回   ファミレスにて
 外に出た二人は、鷹緒の車でファミリーレストランへと向かった。そのまま店に入った鷹緒は、すぐに携帯電話を見つめたので、沙織が首を傾げる。
「電話?」
「いや……」
 そう言うと、鷹緒は携帯電話の電源を切った。
「切っちゃうの?」
「食事中くらい、逃れたいんでね」
「……鷹緒さんって、すごい人なんだね。私、知らなかった」
「なんだよ、さっきから」
 鷹緒が、苦笑して言う。
「だって、いろいろ活躍してるみたいだし、忙しそうだし……」
「まあ、忙しいのは当たってるけど。それより、沙織は?」
「え?」
「だから学校とか、勉強とか、どうなんだよ」
「どうって……特にないよ。順調、順調」
「へえ……」
 その時、沙織の携帯電話が鳴った。見ると、知らない番号である。
「出ないの?」
 首を傾げている沙織に、鷹緒が言う。
「あ、うん……」
 沙織は周囲を気にしながらも、電話に出た。
「はい」
『あ、沙織ちゃん? 僕、木村広樹です。もしかして今、鷹緒と一緒?』
 電話の相手は、鷹緒のいる事務所の社長、広樹であった。
「ヒロさん。はい、一緒です」
『よかった。悪いけど、代わってくれるかな?』
「はい」
 沙織が鷹緒を見ると、鷹緒は嫌そうな顔をしている。しかし出ないわけにもいかず、鷹緒は沙織の電話を受け取った。
「はい……」
『鷹緒。おまえ、食事中に電源切るのやめろよ』
 すかさず、そんな広樹の声が聞こえる。鷹緒はうんざりした様子で口を開く。
「悪いな。飯食う時間くらいは大切にしたいんだよ」
『言うと思ったよ。今、どこだよ。スタジオ行ったら、いないからさ』
「んー、ちょっと気分転換。飯食って、沙織送って、戻るよ」
『わかった。それはいいけど、BBの事務所から連絡あってさ……』
 その話題に、鷹緒は聞き入った。
「何かトラブルか?」
『いや、別件だ。実はおまえに、BB専属のカメラマンになって欲しいっていう、要請が来たんだけど』
「専属……?」
 鷹緒は目の前の食事に手をつけながら、会話を続ける。
『そう嫌そうな声出すなよ』
「……わかってるだろ? 嫌なんだよ、そういうの。専属なんていったら被写体限られるし、いろいろと面倒臭い」
『わかってるよ。でもBBは人気グループだし、損はないよ。BBのメンバーもあっちの事務所も、みんなおまえの腕に惚れてんだよ。今回の写真集の件だって、BBのメンバーから直々の要望なんだぞ?』
 広樹の言葉に、鷹緒は考えていた。苛々するように、テーブルの上に置かれたフォークをいじっている。
「……でも、俺はこれからもいろんな仕事を受けたいし、今は写真だけじゃなくて、企画業までやってるんだ。BBばかりに構っていられないよ。スタッフだって大勢いるわけじゃないし、今でさえいっぱいいっぱいのスケジュールなのに、これ以上、仕事を増やすなよ」
 真剣な態度の鷹緒を、沙織は静かに食事をしながら見つめていた。鷹緒は尚も話を続けている。
『わかってる。スタッフの件は、今後増やすことを約束するし、事務所としてもBBとの契約はプラスなんだ。うちはまだまだ小さい事務所なんだし、わかってくれよ』
 広樹の言葉に、鷹緒は小さく溜息をついて、目を閉じた。
「……わかった。帰ってから考えるよ。リミットは?」
『まだ決まっていないが、近いうちだ』
「じゃあ、今晩考える。じゃあな」
 電話を切ろうとする鷹緒に、広樹の声がすぐに引き止める。
『あと鷹緒。携帯の電源だけは切るなよ』
「わかったよ……じゃあな」
 鷹緒は電話を切ると、沙織に返す。
「……悪かったな」
 そう言いながら、鷹緒は自分の携帯電話の電源を入れた。すると、すぐに電話が鳴る。鷹緒は溜息をつくと、電話に出た。
「はい、諸星です。はい……」
 鷹緒が電話を続けている間、沙織は食事を続けていた。
 しばらくして、鷹緒は電話を切った。
「……大変そうだね」
 苦笑しながら、沙織が言う。いつ見ても鷹緒は、忙しそうに見える。
「だから嫌なんだよ。食事くらい、ゆっくり食べたいのに……もう冷めてるし」
 鷹緒が溜息をつきながら、眼鏡を拭いてそう言った。俯く顔は長めの前髪に隠れ、素顔を見ることは出来ない。
「……目、悪いんだ?」
「昔から、かけてたよ」
「うん、知ってる。それは覚えてるよ」
 眼鏡をかけ直した鷹緒を、沙織は見つめる。改めて見ても、そこに子供の頃に知っている親戚の姿はない。まるで家族や親戚という雰囲気は持っておらず、別世界の男性に見える。
 沙織が見とれるように見ていると、そこに大きなパフェが運ばれて来た。
「うわ、デカ!」
 驚く沙織に反して、鷹緒は嬉しそうだ。
「俺の」
「超意外! 甘い物好きなの?」
「うん、かなり好き。最近疲れてるし、甘い物は腹もちいいからな」
「へえ」
 意外な鷹緒の一面に、沙織は微笑みながら、自分の食事を続ける。
「そういえば、おまえ、バイトとかしないの?」
 突然、鷹緒がそう尋ねた。
「したいとは思ってるんだけどね……」
「じゃあよかったら、うちの事務所また手伝ってくれよ。またBBに会えるかもしれないぞ」
「本当? でもやりたいけど、学校あるから夕方とか週末しか働けないよ? デートの時間だって、削られたくないし……」
「ああ、別にいいよ。週に七日だろうが、一日だろうが、好きな時に来いよ」
 鷹緒は軽くそう言う。
「え、そんなんでいいの?」
「ああ。今日みたいに、暇な時に来ればいいじゃん」
「暇、暇言わないでよ。今日はたまたまだもん。篤がバイトで先に帰っちゃったから……」
「ふうん?」
 そう言いながら、鷹緒はパフェをたいらげた。
「すごい、一気……」
「ごちそうさま。さて、帰るか」
「うん」
 二人はファミリーレストランを出ていった。

 車の中で、沙織はまたも緊張する。鷹緒の存在は、すでに親戚ではなく、芸能人のような感覚になっていた。華やかな世界で活躍する鷹緒の存在は、沙織の好奇心をくすぐる。
「沙織」
「は、ハイ?」
 突然呼ばれて、沙織が我に返った。
「おまえ、家に連絡したのか? 夕飯食べてくるって」
「ううん。いつも私、外で食べるから」
「え、じゃあ、お母さんどうしてんの?」
「お母さんも、夜はパートの日が多いんだ。習い事とかもやってるし。うち、結構オープンだから、遅くても平気」
「おまえなあ……まだ学生なんだから、連絡くらいしろよ」
「はいはーい」
「聞く気ねえな……」
 沙織の返事に、鷹緒は苦笑する。
「じゃあ、鷹緒さんの学生時代は?」
「俺は真面目に勉強してました。まあ……家にはあんまり帰ってなかったけどな」
「じゃあ一緒じゃん」
「一緒にすんなよ」
 車は、沙織の自宅へと着いた。
「ありがとうございました」
 車から降りながら、沙織が言う。
「どういたしまして……でも学校まで電車通学、少し大変だな」
 鷹緒が言った。沙織の自宅から学校までは、電車で四十分ほどだが、行きも帰りもラッシュ時となる。
「もう慣れたよ。それに、遊んでたらラッシュはクリア出来るし」
「遊ぶなよ。じゃあな」
「ありがとうございました」
 鷹緒はそのまま車で去っていった。


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