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作品名:FLASH 作者:KANASHI

第6回   シークレットライブ
 数日後。冬休みが明けた学校で、沙織は篤と話をしていた。
「すげえな、沙織。みんなに自慢出来るじゃん。BBとしゃべって、サイン入りのCDもらったんだぜ?  マジすげえ!」
 子供のようにはしゃぐ篤に、沙織も微笑む。
「うん。ラッキー」
「おまえ、すごいよ。親戚が売れっ子の写真家だなんてさ。あの人、結構有名なんだな。あれからなにげに雑誌とか見てても、諸星鷹緒って名前、かなり出てるよ」
「え、本当に?」
「うん。確かこれにも……」
 驚く沙織に、篤は持っていたファッション雑誌を広げる。すると、メインページのカメラマン表記に、鷹緒の名前があった。
「本当だ! こんな身近な雑誌にも関わってるなんて、知らなかった」
 更に驚いて、沙織が言う。
「なんだよ、親戚のくせに」
「そうだけど……本当に、知らないんだもん」
「アハハ。おまえも大物だなあ。まあ母親の従兄弟じゃ、俺も全然知らないけど」
 その時、沙織の携帯電話が鳴った。
「あ、電話……鷹緒さんだ」
 電話には、鷹緒の名前が出ている。
「早く出ろよ」
「うん」
 篤に促され、沙織は電話に出た。
「もしもし。沙織です」
『諸星ですけど……今、平気?』
 電話からは、確かに鷹緒の声が聞こえる。
「あ、はい。大丈夫」
『連絡遅くなって悪い。ちゃんと金、もらったか?』
 鷹緒が尋ねた。沙織は電話越しに頷く。
「バイト代? うん、もらったよ」
『そうか。助かったよ。ああ、BBにCDもらったんだって? よかったな』
「うん! 本当、ラッキーだよ、ありがとう。あ、BBの写真集って、もう全部撮ったの?」
 はしゃぐように、沙織が言う。
『いや、今日最終。今日終わったら、入稿するから……発売は、春頃になるって言ってたよ』
「春かあ。待ち遠しいな」
『そうか』
「うん。あ、また、手伝いに行ってもいい?」
『まあ、ミーハーしなきゃな』
 鷹緒の言葉に、沙織が赤くなる。
「しないもん。BBだって、別に……」
『まあ、好きな時に来いよ。事務所はいつも誰かしらいるし。おまえの顔も、事務所の人間みんな覚えたみたいだから』
「本当? わかった。ありがとう、鷹緒サン」
『ハハ。こちらこそ……じゃあ、ありがとうな』
「うん」
『あ、おまえ、まだ学校?』
 突然、鷹緒が尋ねた。
「うん、そうだけど……」
『何もないなら、渋谷に来れば?』
「え? なんで……」
『あ、呼んでる。じゃあな』
 沙織はそこで、鷹緒に電話を切られた。
「なんだって?」
 篤が尋ねる。
「よくわかんない……何もないなら渋谷に来れば、だって」
「渋谷に? なんで?」
「さあ……」
 二人は、首を傾げる。
「何か知らないけど、ここに居てもしょうがないし、行ってみるか。それに、今日はBBの新曲発売日だしな。帰ろうぜ」
「あ、今日だっけ。じゃあ、CDショップも寄らなきゃね」
 沙織と篤は、学校を出ていった。
「そういえば今日、BBのDVDも発売だったよね? この間のライブのやつ」
 渋谷の街を歩きながら、沙織が言う。その横で、篤は街並みをぼうっと眺めながら口を開いた。
「そうだっけ。CDと発売日が一緒?」
「そうだよ。そういえば、前もCDとDVDの発売が一緒だった時があって、その時は原宿でシークレットライブやったんだよね」
 その時、女子高生が黄色い声を上げて、走っていくのが見えた。
「キャー! BBがシークレットライブしてるって!」
 その声に、二人は顔を見合わせる。
「走るぞ、沙織!」
「うん!」
 二人は、女子高生たちが向かう方向へと走っていった。
 しばらく行くと、とあるショッピングビルのバルコニーに、BBの姿が見えた。その上には大型スクリーンがあり、アップでのBBが映る。ビルの下には、すでに人だかりが出来ていた。
「あ! 鷹緒さんだ!」
 その中で、沙織がそう叫んだ。沙織の視線の先には、鷹緒の姿があった。鷹緒は、BBたちと同じバルコニーのステージ上で、BBの写真や、ファンの写真を撮っているようだ。
「あれ、沙織ちゃん?」
 その時、沙織に声をかけたのは、鷹緒のいる事務所の社長、広樹であった。
「ヒロさん」
 沙織も気付いてお辞儀をする。
「やっぱり沙織ちゃん。覚えててくれた?」
「はい、もちろんです。先日はお世話になりました」
「いえ、こちらこそ、助かったよ。沙織ちゃん、鷹緒から聞いてたの? このシークレットライブ」
「あ、いえ。たまたま……」
「そうだよな。親戚とはいえ、鷹緒がそんな情報漏らすわけないか……」
 広樹が、苦笑して言った。
「でも、すごいですね。シークレットライブなのに、こんなに人が……」
「うちの企画でね。今日はCDの発売日だし、写真集の宣伝も兼ねてだよ。うちの事務所の宣伝にもなるし」
 BBが映る大画面の下には、スポンサーや企画の名前が小さく連ね、そこに広樹の事務所の名前も入っていた。
「なんかすごいな……すごい!」
 沙織が興奮して言った。その言葉に、広樹が微笑む。
「そう言ってもらえると、こちらとしてもやりがいがあるよ。こちら、彼氏?」
 広樹が篤を見て言った。篤も会釈する。
「はい、遠山です。先日は、撮影現場にお邪魔させていただいて……」
「ああ、聞いてるよ。BBの大ファンらしいね」
「はい」
「ライブはもうしばらく続くと思うから、楽しんでいって。僕らも、なかなかこういう機会はないから、嬉しいよ。じゃあ僕、事務所帰る途中なんで、これで……よければまた、いつでも事務所に寄ってね」
 広樹はそう言うと、そこから去っていった。沙織と篤は、広樹にお辞儀をすると、ライブを見つめた。
「やべっ、バイトに遅れる!」
 すると突然、篤が叫んだ。
「今日もバイト?」
「うん。冬休みで、結構使っちゃったからさ」
「そっか……」
「じゃあ俺行くけど、沙織は?」
「ライブ、最後まで見ていくよ……」
「わかった。じゃあ、また明日な」
 沙織はそこで、篤と分かれた。
 ライブはそれからほどなくして終わってしまい、人の波は嘘のようにどこかへ消えていった。
 沙織はしばらくウィンドウショッピングを楽しんだ後、思い立って鷹緒の事務所へと向かっていった。


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