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作品名:FLASH 作者:KANASHI

第45回   ファイナルに向けて
 数日後。早くもシンデレラコンテスト三次審査の一般投票が行われた。街頭インタビューのほか、インターネットやテレビ局、企業などで写真が張り出され、数社の雑誌で同じコーナーを組み、大々的に行われる。
「わあ、出てる。可愛く撮れてるじゃない!」
 雑誌を見て茜が言った。三人のカメラマン別に、少女たちの写真が並んでいる。二次審査で絞られたといっても、その数はかなりある。
「やっぱりどの子も、鷹緒さんの写真が一番いい顔してるわ。もちろん、沙織ちゃんも!」
 茜が言った。沙織は照れながら雑誌を見つめる。素直に、鷹緒の才能はすごいと思った。

 一週間後。三次審査の一般投票集計が始まった。その結果次第で、最終審査まで行けるかどうかがわかる。
 正直、沙織が受かるかどうかは誰にもわからなかった。美少女といえば、みな美少女だ。結果は、本日の午後七時までに電話がくれば合格となっていた。
 事務所の電話の前で、事務所の関係者一同が張りついているが、鷹緒だけは仕事でいない。
「ああ、もう。トイレにも行けないわ」
 牧が言った。
「わかる。僕もだよ」
 広樹も苦笑して言う。その時、鷹緒が帰ってきた。
「ただいまー……」
「静かに! 電話の音が聞こえなかったらどうするんだよ」
 慌てて広樹が言った。鷹緒は一瞬、怪訝な顔をして、奥へと入ってくる。
「……馬鹿馬鹿しい。みんなして何やってんだか。電話使っていいか?」
「馬鹿はおまえだ! 少しは考えろよ!」
「なんだよ、ピリピリしやがって……」
 鷹緒はそのまま奥の社長室へ向かい、携帯電話をかけているようだった。
 その時、約束の七時になった。一同は落胆の顔を見せる。そばにいた沙織も、申し訳ないといった表情である。
「まあ、よくやったよな……」
「そうだね。残念だけど……」
「おい、広樹」
 落胆している一同をよそに、鷹緒が社長室から出てきた。広樹は珍しくイライラした様子で、鷹緒に振り向いた。
「なんだよ、おまえは……」
「シンコンのファイナルだけど、沙織の衣装どうすんだ?」
「衣装って……落ちたのにか?」
「え? まだ連絡いってないのか?」
 その時、電話が鳴った。慌てて広樹が電話を取る。
「はい、WISM企画プロダクションですが……」
『遅くなって申し訳ありません。全日本・ミス・シンデレラコンテストご応募の、小澤沙織さんの事務所さんでよろしいでしょうか?』
 慣れた様子の、男性の声だった。
「はい、はい。そうです!」
『遅くなりましたが、おめでとうございます。小澤沙織さん、合格です』
「本当ですか!」
『はい。つきましては、来週グランプリファイナルがございますので、よろしくお願い致します。詳細につきましては、これからファックスをお流し致しますので』
「わかりました。ありがとうございます!」
 広樹は電話を切った。そして鷹緒を見つめる。
「鷹緒、おまえ……知ってたな!」
「当然。俺はシンコンのカメラマンだぞ?」
 苦笑しながら鷹緒が言う。しかし一同はホッとした様子で、口々に歓喜の声を上げた。
「本当ひどいわ、鷹緒さん! でも、ということは、沙織ちゃんはファイナルに行けるってことよね?」
「そうだよ。やったね!」
「ああ、よかった……」
 沙織も胸を撫で下ろした。そんな沙織に、鷹緒が微笑みかける。
「悪かったな。言えなくて……」
「……いつから知ってたの?」
「ん……今朝だよ。追加の写真を提出しに行ったら、ちょうど集計が終わったところだったわけ。まあ、身内でもしゃべっちゃいけないのがルールだからな……悪かったよ」
 苦笑しながら、鷹緒が言った。
「よかった……」
「よし、じゃあ今日は、パーっと飲みに行こう!」
「賛成!」
 一同は、そのまま近くの小料理屋へとなだれこんでいった。
 沙織は受かってよかったという安堵感と、決勝まで残ってしまったという荷の重さに、少し不安な表情を見せていた。

「沙織。疲れてるか?」
 飲み会が終わり、店を出たところで、鷹緒が沙織に尋ねた。
「え? ううん、大丈夫……」
「じゃあ、ドライブでも行く?」
 突然、鷹緒がそう言った。思わぬ誘いに、沙織は大きく頷く。
「え? う、うん!」
「ええ、いいなあ」
 茜が羨望の眼差しで見つめる。
「おまえは一人で帰れ」
 鷹緒が言う。
「まあ、今日は沙織ちゃんが主役だもんね……おとなしく帰りますか」
「おう。じゃあ、お先に」
 そう言うと、鷹緒は沙織を連れて、駐車場へと向かっていった。
「どうしたの?」
 車に乗り込むと同時に、沙織が尋ねる。
「べつに? ただ、もうすぐファイナルじゃん。息抜きも必要だろ?」
 鷹緒は車を走らせる。そんな鷹緒の優しさが心地良かった。

 しばらくして車が止まったのは、沙織の実家であった。電話はよくしているのだが、このところ帰っていない。
「ここ……」
「たまには顔見せてやれよ。心配してたから」
 鷹緒の言葉に、沙織が驚く。
「電話がきたの?」
「しょっちゅうくるよ」
「もう、お母さんったら……」
 二人は苦笑して、玄関へと向かっていった。久々の我が家に、沙織もとても嬉しかった。
「沙織、おかえりなさい」
 家に入るなり、母親が出迎える。
「鷹ちゃんも、お世話かけてごめんなさいね」
「いえいえ。おかげさまで、事務所も大助かりですよ」
「さあ上がって」
 二人は中へと入っていった。相変わらず父親は忙しいらしく、母親しかいない。
「もう、沙織がいなくなってから、本当につまらないのよ、この家」
「嘘ばっかり。お稽古事で忙しいくせに」
 母親の言葉に、沙織が突っ込む。
「うるさいわね。それで、どうなの? グランプリまで行けるなんて思ってなかったら、本当に嬉しかったのよ。もちろん私も投票したからね」
「ありがとう。来週ファイナルだって」
「そう。テレビとかにも出るのよね? ドキドキしちゃう」
「相変わらずミーハーだなあ……」
 久しぶりに会う母親を前に、沙織はその日、鷹緒とともに遅くまで話をしていた。

「今日はありがとう」
 帰りの車の中で、沙織が言った。鷹緒は前を見つめたまま、優しく微笑む。
「いいや。お疲れさん」
「そろそろ顔を出そうと思ってたの」
「ああ、喜んでてよかったじゃん」
「うん」
「沙織……まだ元気あるか?」
 変なふうに、鷹緒が尋ねた。
「え? うん……」
「星、見に行こうか」
「うん!」
 鷹緒の提案に、沙織が乗る。
「よし」
 鷹緒はそのまま、近くの峠まで車を走らせた。

「わあ……」
 車から降りた沙織は、圧倒されるように空を見上げて言った。決して地方の山ではなく、そばには住宅街もあるはずだが、星空が綺麗に見えている。
「結構すごいだろ?」
「うん、すごい……」
 沙織は本当に感動していた。空を見上げたまま倒れそうな沙織を、鷹緒が押さえる。
「大丈夫かよ?」
「うん、なんか圧倒されちゃって……すごいね」
 後ろから沙織の腕を掴んだまま、鷹緒も一緒に空を見上げた。
「ああ。ここは割と近いから、嫌なことがあったりすると、よく来てた……」
「……一人で?」
「ああ。ここに連れてきたの、おまえが初めてだよ」
「……嬉しいな……」
 鷹緒の腕の中で、沙織はこれ以上ないというまでの幸せを感じていた。
 しばらくして、鷹緒が口を開く。
「さあ、帰るか」
「うん……」
 少し寂しくなりながらも、沙織は幸福感を噛み締めて車へと乗り込み、マンションへと帰っていった。

「今日はありがとうございました」
 部屋の前で、沙織が言う。
「いえいえ、こちらこそ。遅くまでつき合わせまして」
 鷹緒は自分の部屋の鍵を開け、沙織に微笑みかける。そしてつけ加えて言った。
「……沙織。もうすぐファイナルだけど、焦らずいけよ。おまえは、そのままでいいから」
「うん。ありがとう。おやすみなさい!」
 沙織は笑ってそう言うと、自分の部屋へと入っていった。鷹緒はそれを見届けると、部屋のドアを開けた。


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