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作品名:FLASH 作者:KANASHI

第40回   新たな訪問者
 二次審査を終えて、沙織は理恵とともに事務所へと戻っていった。追跡取材もあったため、沙織は緊張し通しだった。唯一救われたことは、鷹緒から激励の電話が入ったことだ。あれがなければ、二次審査どころではなかったかもしれない。
「おかえりなさい。お疲れさま!」
 事務所に入るなり、広樹や牧が沙織に声をかける。
「ありがとうございます。でも、結果はどうなるか……」
 苦笑して沙織が言う。二次審査の合否は、後日書類で発表されることになっている。今はまだ手ごたえさえ感じられない。
 二次審査を終えてホッとしながらも、未だ緊張した様子の沙織に、広樹が明るく声をかけた。
「最善を尽くしてくれたんだ。何も言うことはないよ。これからみんなで食事に行こうと思ってるんだけど、よかったら沙織ちゃんも一緒に行こうよ」
「はい」
 事務所の雰囲気に安心した様子で、沙織が答える。そこに鷹緒が帰ってきた。すかさず広樹が声をかける。
「早いな、鷹緒」
「打ち合わせだけだから。おう、おかえり。どうだった? 二次審査は」
 鷹緒は沙織を見て尋ねる。
「やるだけのことはやったつもり……」
 沙織の言葉に、鷹緒が微笑む。
「上出来じゃん。広樹、飯でも食いに行こうぜ」
「今、それ話してたところだよ」
 一同は近くの料理屋へと足を運んだ。沙織の労いの意味も含め、その日の夕食会は楽しいものとなった。

 終わってから、鷹緒は沙織を連れて、車で家へと戻っていった。
「部屋が隣ってのも、いいもんだな。送る手間が省ける」
 鷹緒が言う。
「うん……」
「疲れたろ? 今日はゆっくり寝ろよ」
「うん……」
 さすがに疲れきった様子の沙織に、鷹緒は優しく微笑む。沙織は部屋まで送ってもらうと、そのまま倒れるように眠ってしまった。
 鷹緒は沙織を送り届けると、自室へと入っていく。沙織の頑張りに、鷹緒も感心していた。自分にもいつかあったであろう情熱を、少しばかり沙織が思い出させてくれたような気がした。

 数日後。事務所に、シンデレラコンテスト二次審査合格の手紙が届いた。次は三次審査のカメラテストがある。そこには鷹緒もカメラマンの一人として、参加することになっていた。
「なんか嘘みたい。本当に三次審査まで行けるなんて……」
 事務所で、合格通知を見ながら沙織が言った。隣りには理恵がいて、同じように胸を撫で下ろしている。
「まだまだ、これからよ」
「はい……三次審査は鷹緒さんがいるんですよね? 私、鷹緒さんと同じ事務所だし、ひいきだって失格にならないのかな……」
 少し心配そうに、沙織が疑問をぶつける。理恵は軽く首を振った。
「それなら大丈夫よ。カメラマンは三人。一人はフリーカメラマンだけど、もう一人は大手プロダクション所属のカメラマンよ。二次審査に合格している子の中には、その大手プロ所属の子も何人かいるはずだもの。先方もわかっていることだし、何の問題もないわ。被写体がしっかりしていればね」
「それが問題なんですよ……みんな可愛い子ばっかりで、びっくりしました」
 二次審査の様子を思い出し、沙織が俯いて言う。
「天下のシンデレラコンテストだからね。でも大丈夫よ。沙織ちゃんだって負けてないんだから。美形なのは、家系なのかしら」
 理恵がそう言った時、鷹緒と助手の俊二が戻ってきた。
 帰るなり、鷹緒は沙織に気が付き、近付いていく。
「おう。受かったって? さすがじゃん。あとは最終審査まで一気だから、三次もその勢いで頑張れよ」
「うん!」
 真っ先に鷹緒が声をかけてくれたので、沙織は嬉しそうに返事をする。
「こんにちは……」
 その時、入口からそんな声が聞こえ、一同は振り向いた。
「あ、鷹緒さーん!」
 鷹緒に向かってそう叫んだのは、若い女性であった。派手なTシャツにGパン姿というラフな格好だが、そのふくよかな胸は隠しきれない。
「おまえ……!」
 鷹緒は、声にならないといった様子で驚いている。
「茜ちゃん!」
 それに遅れて、理恵と牧が同時に叫んだ。数年前まで広樹の事務所にいた、鷹緒の元助手である、三崎茜だ。
 茜の父親は、カメラマンとしての鷹緒を育てたような、鷹緒の尊敬する写真家である。そんな人物の娘である茜は、数年前にアメリカでカメラマンを続ける父を追って、事務所を辞めたはずだった。
「あ、牧ちゃん、久しぶり。あれ? 理恵さんまで!」
 茜は驚いたように、鷹緒と理恵を交互に見つめる。
「ふうん……楽しそうですね」
 そう言って、茜が目を細めて笑う。
「おまえ、何しに来たんだよ……」
 そんな茜に、鷹緒が冷たく言った。
「冷たいなあ。でも鷹緒さん、全然変わってなくてよかった」
「とにかく入って。今、お茶入れるから」
 牧はそう言って、給湯室へ向かう。
「……そっち、応接室」
 そう言って、鷹緒は応接スペースを指差した。茜は変わらず鷹緒を見つめ、口を開く。
「鷹緒さんは? 私、鷹緒さんと話したい」
「俺は仕事」
「じゃあ、ついてく」
「アホか。俊二、行くぞ」
 鷹緒が俊二を呼ぶ。
「俊二? 新しい助手さんだ」
 興味津々で、俊二を見ながら茜が言う。鷹緒は溜息交じりに頷いた。
「そうだよ……」
「いつ頃帰る? 話がしたいんだけど。ほら、パパから鷹緒さんに……」
 その時、鷹緒は茜の口を手で塞ぎ、そのまま引きずるように入口の方まで連れていった。
「なによう」
 人気のないエレベーターホールで、鷹緒の手から逃れた茜が言う。
「あのことは、まだ誰にも言うなよ」
 真剣な顔で鷹緒が言う。茜は首を傾げた。
「どうして?」
「どうしても。今はシンコンにかかりっきりだからな」
「シンコンって、シンデレラコンテスト? ああ、もうそんな時期か」
「そうだよ。だから、どっちみちそれが終わらないと、俺は動けないからな」
 鷹緒の言葉に、茜は頷いた。
「……わかった。じゃあ、一つだけ教えて」
「なんだよ?」
「どうして理恵さんがいるの? 別れたんでしょう?」
 ズバリと、茜が言った。
「……さあな」
 触れられたくない話題に、目を逸らして鷹緒が答える。
「あ、まさか! 元さやに戻ったの?」
 茜の言葉に、鷹緒はうんざりした様子だ。茜は鷹緒の高校生時代から知り、結婚も離婚もすべてを知っている人物の一人である。
「違うよ……あいつは、豪とよろしくやってんの」
「本当? じゃあ鷹緒さん、まだフリー?」
「うるせえな……」
 バツが悪そうにしながら、鷹緒が頭を掻いて言う。
「いいの、それがわかれば。じゃあ今夜、仕事が終わったら食事でも行こ」
「今日は遅くなる……」
「待ってるもん。食事してくれなきゃ、みんなに言いふらしちゃうぞ」
「おまえなあ……」
 相変わらずの茜の勢いに、呆れ顔で鷹緒が言う。
「じゃあ、後でね!」
 茜はそう言って、事務所へと入っていった。それを見計らって、俊二が出てくる。
「鷹緒さん、あの人は……?」
 凄い勢いの茜に圧倒されながら、俊二が尋ねる。
「……前にいた、俺の助手。おまえとはギリギリ被ってなかったな……行くぞ」
「はい」
 二人は、事務所を出ていった。


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