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作品名:FLASH 作者:KANASHI

第17回   偶然の街角
 数週間後。春の街並みを、沙織が友人の朋子と歩いていた。
「新学期が始まったのはいいけど、あんまり代わり映えしないね」
 朋子が言った。沙織は笑いながら頷く。
「確かに。トモとも、また同じクラスだしね」
「アハハ、腐れ縁ってやつ? でも、先輩とは本当に終わったの?」
 突然、朋子が沙織の彼氏である篤のことを尋ねた。その話題に、沙織は散りかけた桜の花びらを見つめながら、急にしんみりする。
「うん、もう連絡も取ってない……いいんだ。あっちは受験生だし、もう終わったの」
「そう……じゃあ、新しい恋しなくちゃね」
「うーん……」
「なに? 意味深だなあ。もう好きな人でもいるの?」
「えっ、そんなことないけど……」
「怪しい、その反応!」
「もう、トモってば」
 じゃれるように歩きながら、二人は笑った。そして朋子が、切り替えるように口を開く。
「じゃあ、バイトでもすれば? 私もこれからバイトなんだけど、バイト先にちょっといい人がいるんだ」
「バイトかあ。やりたいとは思うけど……」
「沙織?」
 そこへ突然、沙織を呼ぶ声があった。二人が振り向くと、そこには鷹緒がいる。
「鷹緒さん!」
 驚いて、思わず沙織が叫んだ。
「おう、久しぶりだな。学校帰り?」
「うん……あ、友達の朋子です。この人は、親戚の鷹緒さん」
「ああ、カメラマンの!」
 朋子が言った。沙織がモデルをした時に、鷹緒の話は少なからず出ている。
「どうも」
 朋子に向かい、鷹緒がぺこりとお辞儀をした。そんな鷹緒に、沙織が口を開く。
「鷹緒さん、仕事?」
 沙織がそう言ったのは、鷹緒が肩から大きなカメラを提げているからだ。
「いや、オフ」
「でも、カメラ……」
「オフは仕事抜きで写真撮ってるんだよ」
「へえ。本当に写真が好きなんだね」
「まあな……」
「沙織」
 その時、二人の会話を打ち消すように、朋子が声をかけた。
「あ、ごめん、朋子」
 長話してしまったことを、沙織が謝る。
「ううん。いいの、いいの。でも私、これからバイトだから、そろそろ行くね」
「あ、うん。ごめん」
「ううん。じゃあ、また明日ね」
 朋子はそう言って、その場から去っていった。
「……じゃあ、俺ももう行くよ」
 残された沙織に、鷹緒が言った。
「え? せっかく会えたのに……」
 思わず沙織が言う。鷹緒は小さく微笑むと、辺りを見回した。目の前には喫茶店がある。
「じゃあ、茶でも飲む?」
「うん!」
 二人はそのまま、近くの喫茶店へと入っていった。

「本当にびっくりした。こんなところで鷹緒さんに会えるなんて、思ってもみなかった」
 喫茶店で紅茶を飲みながら、沙織が言った。
 先日、鷹緒が結婚していたという事実を知ってからは会っていない。別れ際の態度に、気まずさで事務所にも寄れなかったが、目の前の鷹緒は前と変わらず、笑みさえ浮かべてコーヒーを飲んでいる。そんな鷹緒に、沙織も元通りに笑いかける。
「それは俺もだよ。そうだ、おまえ、BBのファンだったよな? 写真集、欲しいならやるぞ」
「え、本当? 嬉しい!」
「ミーハーな彼氏の分も必要か?」
「あー……」
 鷹緒の言葉に、沙織はバツが悪そうに俯いた。
「どうした?」
「うん……別れたんだ。篤とは」
「……へえ。それはそれは」
 鷹緒はそう言いながらコーヒーをすすり、もう一度口を開く。
「まあ、いいんじゃねえの? どうせおまえ、本当の恋なんてしたことないんだろ?」
「そっ、そんなことないよ!」
 俯いていた沙織は顔を上げ、ムキになって反論する。
「へえ? じゃあ、その元彼クンとは、胸が張り裂けるような、激しい恋愛してたんだ?」
 意地悪気にそういう鷹緒に、沙織はムッとした顔を見せた。反論出来ない沙織に、鷹緒が続ける。
「そら見ろ。おまえら十代の恋愛なんて、くっついたり離れたり、忙しない一時の感情に任せての恋愛だろ? そういうのは、恋愛とは言わないの」
「誰のせいで別れたと思って……」
「……俺のせい? まさか、あの時のことが原因で?」
 驚いてコーヒーカップを置きながら、鷹緒が尋ねた。
「ううん。それだけじゃないけど……まあ、もういいの。バイトでもして、新しい彼氏見つけるわ……」
 反論出来ない沙織が、諦め顔で笑って言う。
「バイト?」
「うん。さっきトモが言ってたの。新しい出会いは、バイトだって」
「……出会いはないかもしれないけど、バイト探してるなら、うちの事務所手伝えよ」
 鷹緒が言った。
「なによ。手伝えよって……」
「ミーハーなおまえに合ってる」
 その言葉に、沙織は赤くなる。
「そりゃあ、ミーハーだけどさ……」
「まあ考えといて。今、ちょっとゴタゴタしてて忙しいのに、バイト募集してる暇もないんだ」
「へえ。繁盛してるんだ」
「まあな……じゃ、そろそろ行くよ」
「うん……」
 二人は喫茶店を出て、別々の方向へと分かれた。


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